2022 年 58 巻 p. 95-118
2021年に発効した核兵器禁止条約には、兵器の禁止だけに注目すると、見過ごしてしまう意義と可能性がある。それは、同条約が核被害者の援助と国際協力を規定していることである。では被害者援助をどう進めていけばいいのだろうか。被害との因果関係の立証はどうするのか、核被害をどうとらえていけばいいのだろうか。本稿は、世界各地の核被害者補償制度を掘り下げていった。
核実験中に特定地域に居た事実と特定疾患に罹患した事実でもって、健康影響を推定して補償する制度が、米国やマーシャル諸島をはじめ世界的に確立されている。さらに子どもや女性に目を配った核被害補償制度が、カザフスタンで確立されていることも注目される。
疾患の有無だけで核被害はとらえられない。日本の被爆者援護法では、発病の有無にかかわらず、被爆者と認定された人は、健康診断や自己負担分の医療費の給付が受けられ、相談事業が確立されていることは注目される。カザフスタンやマーシャル諸島では、土地の環境汚染に伴う被害にも目が向けられている。
重要なことは、核被害を多角的かつ重層的にとらえ、将来への影響も視野に入れて、援護措置も包括的に実施していくことだ。何より核被害を既知のこととして固定的にとらえず、新たに発見していく姿勢が求められる。
核被害者援助と国際協力の出発点は、核兵器禁止条約の締約国会議で、核被害者の当事者の参加と参画を保障していくことだ。そこで核被害者の援助と国際協力を専門に扱う常設機関を創設していくことが、核兵器禁止条約が持つ可能性を拓く一つの道である。