平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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3 「紛争下における女性への性暴力」研究の再考——先行研究のレビューを通して——
土野 瑞穂
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2023 年 60 巻 p. 47-71

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抄録

今日に至るまで様々な視角から数多くの紛争下における女性への性暴力に関する研究が進められてきた。本稿の目的は、それらの研究が抱える問題点を指摘してきた先行研究をレビューし、紛争下の女性への性暴力研究を再検討することである。

先行研究が指摘してきた点として本稿で検討したのは次の4つである。すなわち一つ目に、性暴力の様々な要因を明確にすることなしに「戦争の武器」としてレイプを論じ、女性の保護を謳うことは、女性を「保護される存在」とするがゆえに攻撃対象としての価値を生み出すジェンダーの再生産・強化をもたらす危険があることである。二つ目に、紛争下における女性への性暴力が第三世界の「野蛮さ」を象徴するものとして表象されている点である。三つ目に、紛争下における女性への性暴力の複合的要因を無視し、その要因を「ジェンダー」だけに求めることは、性暴力を「自然化」させてしまう危険があることである。そして四つ目に、「紛争下の性暴力」の被害者の中でも女性被害者に関心を集中させることは、「女性=被害者」「男性=加害者」という二項対立の図式を固定化し、男性の被害者を不可視化させる点である。

こうした問題を回避するための方法として、本稿で取り上げた先行研究が示唆しているのは、サバイバーを取り巻くローカルなジェンダーやセクシュアリティ、人種、民族、宗教、グローバルな経済構造をめぐる権力関係の分析と、そしてこの問題に向き合う者とサバイバーとの間にある権力関係に対する意識化である。

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