本稿は、国際社会学の分野において平和や暴力がどのように扱われてきたのかを論じる。国際社会学は1980年代に提唱されてきた比較的新しい学問であり、グローバル化の進む中で国民国家が相対化し、国家や国家を単位とする既存の学問でとらえきれない現象を対象としてきた学問である。本稿は国際社会学の中で紛争や暴力を扱った代表的な著作として小倉充夫・舩田クラーセンさやかによる『解放と暴力――植民地支配とアフリカの現在』(2018年、東京大学出版会)と筆者自身の二著作(The Nellie Massacre of 1983: Agency of Rioters, 2013年, Sage;『終わりなき暴力とエスニック紛争――インド北東部の国内避難民』慶應義塾大学出版会、2021年)を取り上げ、その傾向を分析した。非国家主体の台頭を一つのきっかけとして登場した国際社会学の中では、植民地統治下の人々、小農、国内避難民など多様な主体を対象とし、その人々にとって平和とは何か、解放とは何かという問いが中心的となってきたことを明らかにした。こうした国際社会学と平和研究が交差する地点の研究は、竹中千春が過去に『平和研究』で論じた「平和の主体」(「平和の主体論――サバルタンとジェンダーの視点から」『平和研究』第42号)を豊かにする試みであり、平和研究の新たな地平をひらく可能性があるものである。