本稿では,バランス能力の測定法としての直立検査について,筆者の考えを述べた。バランスを保つには,安定性限界とよばれる機能的な支持基底面内に体重心を収めることが必要になる。直立検査では,足位を変えることで支持基底面の大きさを変化させて,立位保持の可不可や立位保持時間を測定する。支持基底面が小さくなるにつれ安定性限界は減少し,重心動揺は増加する。立位を保てる限界の足位では安定性限界と重心動揺の大きさはほぼ等しくなり,重心動揺の大きさが安定性限界を上回れば立位姿勢を保持できない。直立検査は静的バランス能力,安定性限界は動的なバランス能力の評価指標とも位置づけられるので,立位を保てる限界の足位は静的バランス能力と動的バランス能力の接点に相当する。直立検査の結果と歩行能力レベルには強い関連性があるが,安定性限界と重心動揺の挙動から考えると,直立検査には動的なバランス能力の要素も含まれており,このことが歩行能力との強い関係に関連すると考えられる。