主催: (社)日本理学療法士協会, 関東甲信越ブロック協議会
【はじめに】
膝蓋腱断裂は、健常者のスポーツ活動時の発症と慢性腎不全やRAなどの全身疾患を有する患者での日常生活動作時の発症報告がある。今回、スポーツ活動時に膝蓋腱断裂を生じた症例の理学療法と2年経過までの運動機能について報告する。
【症例及び現病歴】
症例:48歳、男性、身長183cm、体重95kg
現病歴:平成16年2月27日、走り高跳びの練習中ベリーロールの踏み切り時受傷。紹介にて当院受診し左膝蓋腱断裂と診断され手術目的に入院となった。
【画像所見】
X線所見では側面像で膝蓋骨高位(Insall Salvati法Lt/Lp比1.7)を認めた。MRI所見では膝蓋腱近位部に断裂を認めた。
【手術所見】
膝蓋腱は近位内側から遠位外側に向けて斜めに断裂していた。膝蓋腱内側2/3は膝蓋骨より剥離し、外側1/3は実質部の断裂であった。同時に内・外側膝蓋支帯の断裂を認めた。ring pinを膝蓋骨中央と脛骨粗面後方の2箇所で水平方向に刺入しwireにて8の字締結後、断裂部を引き寄せ縫合した。
【経過及び理学療法】
平成16年3月5日理学療法開始、翌日手術施行となり術後理学療法は90度までのROM、セッティング、ブレース下SLR、ブレース下歩行を施行し同月26日に独歩にて退院となった。7月26日抜釘となり以後定期的外来フォローを継続した。
【理学的所見】
大腿周径膝上10cm健側差では、術前3.5cm、抜釘時-4.5cm、術後1年時-1.5cm、術後2年時-4cmとなった。ROMは、術前60度、抜釘時130度、術後1年時145度、術後1年半時155度となり正座可能になった。MMTは術後2年時4レベルであった。疼痛は、術後1年半まで大腿前面の伸張痛で、膝蓋大腿関節での軋音を認めた。術後2年時Lt/Lp比1であり、運動機能は日常生活上問題ないがジョギングやスポーツ活動の復帰は不十分であった。
【考察】
理学療法では、手術の目的である膝蓋腱縫合部の修復を優先しワイヤーの問題として1)骨のcheese cut2)破損3)軟部組織の圧迫などを考慮した。ROM拡大では、膝関節屈筋の収縮を用いて相反抑制を利用し、大腿四頭筋防御性収縮を排除することで得た。また設定角度内で断裂部を除く大腿四頭筋選択的ストレッチを施行し伸張性を維持した。歩行では、一般的に完全伸展位では大腿四頭筋の収縮は必要ないと言われているため早期より装具下の歩行を許可し移動手段を確保した。術後2年時では筋力の回復遅延が続いており、膝蓋骨高位など膝蓋腱のエロンゲーションは認めないため、膝蓋支帯を含めた広範囲断裂、体重、軋音、再断裂の不安などが遅延因子と考えられ、今後の課題である。