関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 37
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口述発表5(生活環境支援系)
在宅療養を支援するための取り組み
訪問リハビリの一症例を通して
*大曽根 厚人
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抄録

【はじめに】  在宅療養を希望する人の多くは、住み慣れた家で「その人らしい」生活スタイルを求め、自分らしく過ごしたいと願う。今回、寝たきり生活により廃用性の機能低下、ADL動作能力低下から介護負担の増大を呈した症例を担当した。利用者と家族のニーズを尊重した関わりから、一考察を得たので以下に報告する。 【症例】  A氏:83歳男性(要介護度3、寝たきり度:B1、認知度:自立)。妻(79歳)と2人暮らし。平成11年5月転倒受傷にて多発性脳梗塞、頚髄損傷、OPLLと診断。中枢性四肢麻痺、仮性球麻痺を呈する。保存療法、加療にて同年9月退院となる。B.I:30点、体動時は頚椎カラー装着。寝返り困難、排泄はポータブルトイレ使用し、車椅子にて移動する。食事は自力摂食可能だが、ムセ・排痰が認められる。 【経過・介入】  平成17年3月、訪問リハビリ開始。A氏は“口から食べたい”“家の風呂に入りたい”と強く希望し、介入目的を食事・入浴動作の維持、妻の介護負担軽減、生活上のリスク管理指導とした。訓練経過と共に、妻やヘルパーへの介助方法指導や福祉用具の提案・導入。また主治医・訪問看護師より誤嚥性肺炎等のリスクについて説明されるも、A氏は医療的処置に対し拒否が強く、その心理的背景として“家で好きなように生きたい”という気持ちがあった。半年から年に1回サービス担当者会議を行い、サービス状況や介助方法の確認をした。平成20年1月より熱発を繰り返し、同年6月入院、訪問リハビリ終了となる。 【考察・まとめ】  介入当初は医療的処置を念頭に入れた生活支援としていたが、A氏の希望する関わりとは異なったものだった。A氏は残された人生が我慢や苦痛の生活になる事を避け、自らの意思決定で食事・入浴という生活の場から楽しみを見つけていた。妻も同様に、人的・物的環境や時間的制約の中で、可能な限りA氏と同じ空間で過ごしたいと考えていた。結果的に在宅生活が困難となり入院を余儀なくされたが、A氏は妻と共に過ごす事で「自分らしい」生活スタイルを構築でき、一家の柱としての役割を果たすことができた。訪問リハビリとして、様々な症状や障害・苦痛に対しての医療的処置は限られたものである。サービスを提供する側と受ける側の間に生じるズレを早期に見出すことで、利用者・家族の尊厳を保ち、希望に繋がるための支援をしていく事の重要性を実感した。

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© 2010 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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