関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第29回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 240
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口述発表38(小児発達支援系)
下肢ボツリヌス毒素治療を施行された脳性麻痺児の一症例
*佐野 久美子大橋 ゆかり岩崎 信明
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抄録
【はじめに】 脳性麻痺児に対する下肢A型ボツリヌス毒素(以下BTA)治療が2009年4月より保険認可された。今回、下肢BTA症例を担当する機会を得たので、症例が下肢BTA治療を開始してからの10ヶ月の経過について報告する。
症例はふつう幼稚園通園の5歳女児。診断名:脳性麻痺、障害名:痙性対麻痺。下肢BTA開始時(4歳)の運動機能;粗大運動能力分類システム(GMFCS)レベル1。可動域は足関節背屈で低下。modified Ashworth Scale(MAS)は右3、左4。歩容は尖足を呈し、Initial Foot contact scale(IFCS)は右4、左3。ADL自立、屋内外の移動は踵を補高したSLBを使用して可能。階段は手すりを使い二足一段昇降。運動能力は片脚立位とジャンプで制限され、同年齢の児に比べると走行速度の遅延あり。粗大運動能力尺度(GMFM)は76.75点であった。
なお、本研究の開始に当り、症例にはヘルシンキ宣言に基づいた説明を行い、書面にて本研究への協力の承諾を得た。
【下肢BTA 治療および理学療法】  下肢BTA治療は、下腿三頭筋に対して計4回施行された。1・2回目の施行時のみ、2週間の入院で理学療法を施行した。内容は、徒手及び起立台ストレッチ、前方への踏み込み練習、片脚立位バランス練習、トレッドミル歩行練習であった。
【結果】 4回目治療前に、MASは右3、左3、IFCSは右3、左1.5、GMFMは82.99点であった。対応サンプルの検定の結果、各治療前後においてMAS・ROM・歩幅は有意に改善していた。BTA治療前と10ヶ月後の比較において、ROMは有意に改善していた。
ビデオによる歩行分析より、1回目治療直後は歩幅が増大するものの、膝ロッキングと鶏歩が出現し走行速度が一時的に遅延した。2ヶ月経過時には膝ロッキングと鶏歩は消失し、左遊脚初期に足背屈が出現していた。治療前は右脚振り出しが努力性だったのに対し、1回目治療後はスムーズな振り出しが可能になった。
日常生活上、1回目治療後は両親より転びにくくなったとの報告を受けたが、3回目治療前に幼稚園より転びやすくなったとの指摘を受けた。
【考察】 下肢BTA治療は長期的にも効果があり、治療後は新たな運動パターンの構築がなされ、歩行中の足背屈反応など、他の筋活動の導引を期待できる可能性があった。この筋活動を強化するための理学療法を併用することは、治療後の機能維持に有効であると考えられた。しかし,短期間で運動能力が向上することにより、一時的に転びやすくなる可能性があった。
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© 2010 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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