主催: 社団法人日本理学療法士協会 関東甲信越ブロック協議会
【目的】
歩行時の重心の軌跡は、単脚支持期に高位、両脚支持期に低位となる正弦曲線を描くことが知られている。人間は力学的な効率化のために、この重心の上下動を平坦化する方略をとるとされ、多くの研究者が様々な報告をしてきた。しかし、それらの報告には絶対空間での重心移動を体節の相対角度から説明しようとするものが多く、体節運動自体を絶対空間において分析したものは少ない。
そこで今回は、歩行時の重心の上下動の平坦化に対して、絶対空間で各体節がどの様に寄与しているかを調べるために、立脚期において各体節が鉛直方向に占める大きさ(高さ)を分析した。
【方法】
対象は本研究の主旨に同意した健常成人男性6名(平均年齢26.7±3.7歳)とした。
運動課題は定常歩行とし、計測には三次元動作解析装置VICON-MX(VICON PEAK社)と床反力計(AMTI社)を使用し、各標点位置と床反力を計測した。赤外線反射標点は臨床歩行分析研究会の勧める方法に準拠し、両側の肩峰・股関節・膝関節・外果・第5MP関節の計10ヶ所に貼付した。得られた標点位置から、身体を両足・下腿・大腿・及び体幹より成る7節リンク剛体モデルで近似し、鉛直方向における重心位置と各体節の大きさを算出した。尚、下肢の分析対象側は被験者毎に左右でランダムに決定し、各データは床反力から判断した立脚期で正規化し、分析に使用した。
【結果】
重心は立脚中期に最高位となり、初期と後期で低位となる定型的なパターンを呈した。
以下に各体節の鉛直方向での大きさの特徴を挙げる。
・立脚初期の大腿の減少と足の増大
・立脚中期の下腿と大腿の極値の時間差
・立脚後期の下腿の減少と足の増大
・体幹はほとんど増減しない
尚、これらの特徴は全ての被験者に共通していた。
【考察】
結果より重心の上下動に体幹はあまり関与せず、下肢の動きの影響が大きいことが分かった。
人間の歩行は二本の下肢を交互に振り出すコンパスモデルに示されるように、歩幅を拡大することと重心の上下動を小さくすることは相反する課題である。立脚初期と後期における大腿と下腿の減少は、歩幅の拡大のためにそれらの体節が傾斜したことを意味しており、この時期の足部の増大は歩幅の拡大に伴う重心下降を抑制する役割を果たすと考えられる。足部は最下体節であるため、他のどの体節を増大させるより立脚期の重心下降の抑制に有効である。即ち今回の結果は、重心の上下動の平坦化にとって立脚後期のHeel Riseが重要とするKerrigan(2000)の報告を支持することに加えて、立脚初期のHeel Rockerが重要となること示唆するものであった。