主催: 社団法人日本理学療法士協会 関東甲信越ブロック協議会
【目的】
肩こりに悩む国民は多い.平成16年厚生労働省国民生活基礎調査によると女性が訴える症状の第1位である.肩こりで病院に行く人は少なく,悪化し,機能障害が起きたのちに来院する患者を臨床の現場ではよく経験する.しかしながら,肩こり者の肩の動きに着目した研究は散見されない.治療法もストレッチや温熱などであり,不良姿勢改善や肩の動きなどの根本的な解決にはなっていなく,対処療法になってしまっているのが現状である.よって,今回は肩こり者の前方リーチ時における肩甲骨の動きを検討し,肩こりが起きる人の肩周囲における評価の一助とすることを目的とする.
【方法】
対象は肩こりを訴え,僧帽筋上部の筋緊張が高くなっているものを肩こり群15名(平均年齢25歳,男7名,女8名)と,肩こりの訴えがない対象群10名(平均年齢25歳,男6名,女4名)とする.肩こり群は左右の肩こりの強さの訴えと同一験者が左右の僧帽筋上部の緊張を確認し,それが一致したものとする.対象群は利き手側を対象にする.肩甲骨位置の計測は膝,股関節90度にあわせ,座位で行う.1,上肢屈曲90°位と2,上肢90°屈曲位からの前方リーチ位で計測する.肩甲骨の位置計測にはA,第三胸椎棘突起から肩峰までの距離とB,第三胸椎棘突起から肩甲骨上角までの距離をテープメジャーにて計測する.1,から2,への変化量をもとめる.前方リーチの方法は90°屈曲位より上肢が床面と水平を保ち,上肢の高さが変わらないようにと指示し,臀部が座面より離れない中で最大に前方リーチしてもらう.統計手法は対応のないt検定を用い,有意水準は1%未満とする.
【結果】
Aの結果は肩こり群の平均変化量は1.1±0.3cm対象群は-1.0±0.9cmであった.Bの結果は肩こり群の平均変化量は1.1±0.25 cm対象群は-0.5±0.7cmであった.A,Bの結果共に2群間には有意水準1%未満で優位な差を認める結果となった.
【考察】
肩こり群は棘突起から肩甲骨の距離が広がり,対象群は距離が縮まるか,変わらなかった.これより,肩こり群は前方リーチ時に肩甲骨を前外側方向へ移動させることでリーチを行う.それに対して,対象群は内側に移動する.これは体幹を回旋させることで,リーチを行ったと考えられる.肩関節は複合関節であり,単関節では機能的には動かない.体幹まで含めた動きが重要である.前方リーチ時には目標まで手を動かす際に上腕,肩甲骨,体幹の中枢部をうまく調節することで負担なく上肢をリーチする動作である.言い換えれば,末梢の手の位置を目標となる場所に伸ばし,それより中枢の部分で調節を行う動作になる.肩こりはこの調節が上手くいかないときに肩関節周囲の筋緊張が上がり,肩こりが発生するものと予測される.
【まとめ】
前方リーチ動作は肩こりの肩の動きを把握する評価として重要である.今後,さらに詳細に体幹部,上腕,前腕との関係を検討していく必要がある.