抄録
【はじめに】食道癌の手術的治療は開腹及び開胸を伴い、全身麻酔下での長時間の手術時間を要し、術後に高頻度で呼吸器合併症を伴う。今回、食道癌手術後に早期離床し、呼吸器合併症なく良好な経過を得た症例を経験したので文献的考察を加え報告する。
【症例】60歳代、男性。BMI:18.8。診断名:食道癌(術前stageIII)。ブリンクマン指数:1400。本報告の主旨を説明し同意を得られた症例である。
【術前評価】肺機能
FVC:104%,FEV1.0%
:71%。呼吸様式:意識下での腹式呼吸可能。深さ・大きさ共に十分。アルブミン:3.9mg/dl。MMT:5。ADL:自立。心理面:良好。
【経過】嚥下痛、嘔吐、背部痛持続にて、当院受診し上記診断。術前化学療法2回実施後、手術目的にて入院。術前4日前から1日前まで術前呼吸理学療法(RPT)1術前オリエンテーション、2腹式呼吸訓練、3咳嗽・排痰シュミレーションを実施。また、術後起き上がり動作シュミレーションを実施した。入院4日目、右開胸開腹胸部食道全摘出術実施。(手術時間6時間20分、出血量351ml。)人工呼吸器抜管後リカバリー室へ帰室。マスク酸素療法(O2):3l/min。ナースサイドにより体位変換開始しdependent lung disease防止に努めた。術後1日目RPT開始。痰貯留あった為、吸入薬併用し喀痰実施。(O2):3l/min、PaCO2:44.3Torr、PaO2:68.9Torr、HCO3-:27.6mmol/l 。術後2日目座位訓練開始。ガーグリング及びハッフィングにて喀痰促進。術後3日目歩行器歩行訓練開始。術後5日目硬膜外麻酔抜去。酸素療法終了。点滴棒把持し歩行訓練開始。術後15日目独歩可能。術後19日目退院。
【退院後肺機能】術後45日目肺機能FVC:89%、FEV1.0%:76%。
【考察】高木らの報告によると術前FEV1.0%が73%以下、ブリンクマン指数が869以上の症例では、術後呼吸器合併症を生じる危険性が更に高くなるとの報告がある。本症例でも、術前FEV1.0%:71%、ブリンクマン指数:1400であり、術後呼吸器合併症のリスクが高いと考えた。その為、術前から換気量・肺容量・機能的残気量増大、気道クリアランス促進による酸素化の改善、呼吸器合併症の予防といったRPTのメリットを併せたオリエンテーション、RPTを提供し、術後早期より医師、看護師と綿密な連携を取りながら早期離床・ADLの獲得を遂行した。また、術後当日より人工呼吸器の抜管ができたことや、反回神経麻痺を合併しなかったことも術後呼吸器合併症の予防に繋がったと考える。しかし、退院後の肺機能検査にてFVCの低下が残存しており、術後は呼吸器合併症の予防だけでなく、退院後の呼吸機能向上へのアプローチも必要であると考える。