抄録
【目的】
本報告では,発症後の急性期に基本動作全介助レベルにて
自宅退院した後に30か月間の訪問リハを実施した脳梗塞両片
麻痺者の事例の経過をとおして,訪問リハの継続による収縮
期血圧(SBP)の改善効果について検討することを目的とし
た.なお,訪問リハの概要およびデータの学術的利用につい
て,対象者および家族に対して説明し同意を得た.
【症例】
69歳,男性,慢性腎不全を既往し,平成22年12月に脳梗塞
両片麻痺を発症した.入院後,医師より予後について機能改
善困難と診断され,発症後1か月に自宅退院し,要介護5にて
平成23年5月より3回/週,40分/回の訪問リハを開始した.訪
問リハ開始時は,基本動作能力bedside mobility scale(BMS)
0/40点と全介助レベルで,両上下肢と体幹に運動麻痺があ
り,訪問リハでは家族への介護方法の指導と併せて基本動作
練習を中心に実施した.血圧コントロールが不良(SBP120-
200mmHg)で易疲労と日間変動がみられたため,介入時に
留意してリスク管理しつつ介入内容を随時調整した.
【結果】
訪問リハ開始時から平成25年10月までの30か月間で月平均
12回,計377回の訪問リハを実施し,BMSは平成24年4月26点,
平成25年4月33点と改善した.毎回訪問リハ時のSBPの3か月
間ごとの値について一元配置分散分析および多重比較検定に
て比べた結果,訪問リハ開始1-3か月後(平均159mmHg)ま
たは13-15か月後(平均187mmHg)に比べて25-27か月後(平
均129mmHg)または28-30か月後(平均128mmHg)は有意
に低い値を示した.また,訪問リハ開始後3か月間ごとの
SBPの平均値と訪問リハでの歩行練習の累積実施回数との
Pearson相関係数を算出した結果,有意な負の相関が認めら
れた(r=-0.692).
【考察】
本症例は発症時に血圧コントロール不良で著しい高血圧を
呈していたが,歩行練習をできるだけ早期から開始し,訪問
リハを継続的かつ長期的に実施することによって,SBPの改
善を促進できた可能性があると考えられた.