主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【背景】 一方向弁を利用した最大強制吸気量(LIC)の機能を有するLIC TRAINER が医療機器として承認され、神経筋疾患の呼吸不全の経時的な呼吸機能評価に加え、肺の柔軟性を保つ練習機器として期待されている。
【目的】 短期間に継続的なLIC 練習を実施できたALS 患者の肺活量(VC)の変化から、LIC TRAINER の有効性を検討する。
【症例】 70 歳代女性。半年前に右下肢の脱力で発症。精査目的で入院し、ALS と診断され告知。ALSFRS-R は42
点、ADL 自立、屋内は歩行器で移動。認知機能低下や球麻痺症状はなかった。バックバルブマスク(BVM)を用いた最大強制吸気量(MIC)の陽圧に馴染めなかったためLIC 練習を開始、LIC 導入は容易であり、NPPV 及びカフアシストの導入を行い、自宅退院となった。
【方法】 倫理審査承認後、本人の承諾を得て、呼吸理学療法としてLIC 練習を2 週間(合計10 回)実施。練習ではLIC TRAINER を用い、LIC を毎回、理学療法時に3 回実施した。評価項目として、LIC 練習前(5 日間)とLIC 練習後のVC を経時的に比較した。また、患者から感想を聴取した。
【結果】 VC はLIC 練習前(1400、1600、1400、1500、1400)ml、LIC 練習(1650、1540、1740、1600、1750、1700、
1950、2000、2100、2100)ml と増加。患者からは「呼吸の練習で深呼吸するとすっきりした」、「NPPV やカフアシストのコツをLIC で学べた」が得られた。
【考察】 神経筋疾患の呼吸理学療法としてBVM を用いたMIC があるが息溜めする機能を獲得する練習が必要である。本症例にとってLIC は自分で陽圧を解放できるためMIC より陽圧に慣れ易く、LIC TRAINER を用いたLIC 練習により、NPPVとカフアシスト導入に有効である可能性があった。また、LIC 練習により短期間にVC を改善させる可能性があり、虚脱していた肺がLIC で伸張されたことで、横隔膜等の吸気筋が促通されたことが考えられた。今後は長期使用や多数例に使用し、LIC の有効性と限界について実証したい。