抄録
【目的】
脳卒中によって生じる運動失調は,軽症例に限定したリハビリテー
ションの経過報告は少ない.そのため今回,脳卒中により軽症な
運動失調を呈した患者に対するリハビリテーションの経過を検討
することを目的とした.
【方法】
対象は2020年6月から2023年3月に共同研究3施設の回復期
リハビリテーション病棟に入棟したテント下病変の脳卒中患者で,
Brunnstrom stageⅤ以上の94名とした.対象例から,前院の
入院期間が60日以上,急変例,整形疾患に伴う痛みを有する者,
病前mRS3以上,認知機能,高次脳機能障害により測定が困難な
もの,データ欠損例を除外した.解析対象は,入院時のScale for
the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)10点以下の
軽症群(31名)とした.入院中の理学療法は,体幹と四肢の協調運
動,バランス,歩行練習による包括的介入を週7日,40-60分/
日,実施した.入院時と4週間後の,SARA,Trunk Control Test
(TCT),Berg Balance Scale(BBS),Mini-Balance Evaluation
System Test(Mini-BESTest),10m歩行速度を比較検討した.
解析は,対応のあるt検定にて連続変数を比較し,カイ二乗検定を
使用してカテゴリ変数を比較した.また,各測定項目の効果量を
算出した.解析ソフトはIBM社SPSS 29を用い,有意水準を5%
とした.
【結果】
各項目の平均値を入院時,4週間後の順に示す.SARA(点):6.6
→2.9,TCT(点):87.5→95.8,BBS(点):33.9→44.8,MiniBESTest(点):9.8→17.5,歩行速度(m/sec):0.7→0.9となった.
効果量は,SARA,BBS,Mini-BESTestが0.8以上の効果量と
なった.
【考察】
本研究の結果より,運動失調,各運動機能は有意に改善した.
SARA,BBS,Mini-BESTestは立位を伴うバランス機能の改善
を示した.脳卒中の発症後90日は機能改善が大きいとされるが,
軽症例も経過に伴い運動失調やバランス能力が改善したため,早期
からリハビリを行うことは重要であると考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は各研究参加施設の倫理委員会の承認を受け実施した.対象
者または家族には,事前に口頭および書面で説明し同意を得た.