抄録
【はじめに,目的】
近年,筋機能の質的評価として筋活動電位の変化率を平均勾配で
示した筋活動上昇率(Rate of electromyography rise;RER)
が注目されている.先行研究では大腿四頭筋のRERについて,膝
関節伸展運動に股関節内転運動を加えた研究が多く報告されてい
る.一方で,運動開始時の股関節肢位による大腿四頭筋のRERの
違いを調べた研究は散見されなかった.また内側広筋は,股関節
外転位にて高い筋出力を示す可能性があるが,RERについても同
様であるかは明らかにされていない.そこで本研究の目的は,運
動開始時の股関節肢位による大腿四頭筋のRERの違いを明らかに
することとした.
【方法】
対象は膝関節に整形外科的疾患の既往がない健常成人14名とし
た.運動条件は股関節肢位を中間位・外転位・内転位の3条件とし,
内外転の角度は各10°とした.測定肢位は端座位で,両上肢を後
方に手を付き,膝関節90°屈曲位で足底は床に接地しないように
し,最速かつ最大の力で膝伸展自動運動を5秒間行った.外側広
筋(VL)・大腿直筋(RF)・内側広筋(VM)の筋活動を,Noraxon
社製のULTIUMを用いて測定した.最大筋力の2.5%をon setと
し,on setから50ms後までのRERを算出した.また,計測は3
回行い,RERの平均値を算出し,解析に用いた.各条件の計測は
期間を空けて実施した.統計学的検討は各肢位のRERに対して反
復測定分散分析を行い,事後検定としてShaffer法を用いた.統
計解析はRコマンダーを使用し,有意水準は5%とした.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は対象者に研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で
行った.
【結果】
RERの平均値は,VLでは中間位327.4(μV/ms),外転位319.4(μ
V/ms),内転位281.5(μV/ms)であり,有意差はみられなかった.
RFでは中間位221.7(μV/ms),外転位205.6(μV/ms),内転位
193.0(μV/ms)であり,有意差はみられなかった.VMでは中間
位318.5(μV/ms),外転位377.1(μV/ms),内転位252.2(μV/
ms)であり,股関節中間位・内転位に対して,外転位で有意に増
大した(p<0. 05).
【考察】
VMの斜走線維は広筋内転筋腱板を介して大内転筋腱より起始し,
股関節外転位では大内転筋腱性部が伸張されることで緊張が増大
し,大内転筋とVMの共同収縮が生じたため,RERが増加したと
予測される.本研究の結果から,VMの膝関節自動伸展運動につ
いて,股関節外転位で行うことで,より効率的な筋力改善トレー
ニングになる可能性があると考えられる.