抄録
【はじめに,目的】
生体インピーダンス法にて算出される位相角(Phase angle:
PhA)は,reactance/resistance比で算出され,細胞膜の生理
的機能や体細胞量を反映して低栄養で低下する.がん患者におい
て体重減少や生化学データより強い予後予測因子とされ,乳がん
患者に対するレジスタンス運動が,細胞内タンパク質の同化,細
胞膜構造の強化等によりPhAを改善させることもわかっている.
乳がん患者に使用する抗がん剤であるDocetaxelは副作用として
食欲不振,全身倦怠感,浮腫を伴い低栄養状態を惹起すること
からPhAが低下すると推察される.そこで本研究は,Docetaxel
投与とPhAの関連を観察する点を新規性とし,化学療法による骨
格筋を含めた細胞膜損傷に対するレジスタンス運動の適応を検証
するために,Docetaxel投与が及ぼす細胞膜機能低下の機序を
PhAから明らかにすることを目的とする.
【方法】
対象は当院にて乳がんに対して手術を施行した患者44例とし,
Docetaxel投与群(D群),Docetaxel非投与群(C群)に群分けを
行った.測定項目は,年齢,身長,身体組成とし,身体組成は
Inbody770(Inbody社)にて,体重,Body Mass Index(BMI),
骨格筋指数(Skeletal Muscle mass Index:SMI),PhA,細
胞外水分比(Extracellular Water/Total Body Water:ECW/
TBW)を測定した.統計学的分析はD群とC群の各指標の比較に
対応のないt検定を用いた.有意水準は全て5%未満とした.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は筆頭演者が所属する施設の研究倫理委員会にて承認を受
けた.また,対象者には書面と口頭にて説明を行い,同意を得た
上で実施した(承認番号:22-Ig-233).
【結果】
44例中,D群は10例,C群は34例であった.D群とC群の2群間
の比較において,年齢,身長,体重,BMI,SMI,ECW/TBW
は有意差が認められなかった.PhAにおいて,D群(3.9±0.6°)は
C群(4.6±0.6°)に比べ有意に低い値を示した(p<0.05).
【考察】
D群はPhAが有意に低下していた.Docetaxelはオクタノール
/水分配比が高く,細胞膜のリン脂質二重層に蓄積しやすい.
Docetaxel蓄積はアポトーシスや活性酸素による細胞の酸化的損
傷を誘引する.加えて,細胞質が受ける酸化ストレスは,細胞膜
脂質や膜タンパク質密度を低下させreactanceが減少することに
よって位相角が低下したと考えられる.本研究の成果としてレジス
タンス運動等がDocetaxel投与患者に対するPhA低下予防対策と
なり得る新たな知見を得た.