抄録
【はじめに】
強い疼痛によりADL障害が生じている広範囲腱板断裂を伴った変
形性肩関節症患者に対し,疼痛軽減・機能改善・ADL能力向上を
目的にリハビリテーションを行った.
【症例紹介】
70歳代女性右利き.既往歴にリウマチ,白血病, 乳癌(手術),腺
癌(手術)がある.4年前より右肩関節に疼痛があり,他院でリハ
ビリと注射(ヒアルロン酸2回,ステロイド1回)を実施したが改善
がみられず,当院受診.主訴は,洗髪動作や掃除で右肩が痛むこ
と.レントゲン所見より,肩関節裂隙消失がみとめられ,濱田の
分類Grade 4A.エコー所見より,棘上筋・棘下筋・肩甲下筋の
断裂がみとめられた.疼痛は,安静時痛NRS0,夜間時痛0,運
動時痛6 ~ 7.ROMは肩関節屈曲90°/180°,外転80°/170°,外
旋-10°/30°,内旋(C7TD)49cm/22cm.MMTは屈曲3/5,外
転2/5,外旋2/5,内旋2/5.触診により,棘上筋・棘下筋に
萎縮がみとめられた.整形外科的テストは,Neer test+/-,
Hawkins test+/-,full can test+/-,empty can test+/-,
belly press test+/-,外旋抵抗test+/-,内旋抵抗test+/-,
speed test+/-.腋窩神経領域の感覚10/10.三角筋中部線維
の圧痛+/-.肩関節painful arc sign+/-であった.
【介入と結果】
徒手療法は,過緊張となっている三角筋・僧帽筋上部線維・肩甲
挙筋のリラクゼーション,可動域拡大のために関節包のストレッチ,
肩甲骨の可動域訓練を実施.運動療法は求心位を保つために残存
腱板機能筋である小円筋の筋力訓練,上肢挙上を獲得するために
肩甲骨周囲筋・三角筋の筋力訓練を実施.物理療法は,除痛と筋
緊張の緩和を目的として立体動態波の施行,ADL指導を実施.上
記実施したところ,右手を使用した洗髪動作が可能となった.
【考察】
本症例では広範囲腱板断裂を伴う変形性肩関節症があるため,
肩関節可動域・筋力低下が認められ,疼痛による機能低下のため
にADLにも影響が認められていた.残存腱板機能訓練や肩甲骨周
囲の筋力訓練で可能な限りの機能改善を図ったが,機能の改善は
限定的であった.ADLにおいては洗髪動作の指導を行ったところ,
痛みの生じない動作が獲得された.また徒手療法で三角筋の過活
動を抑制し,残存腱板機能筋である小円筋の筋力訓練を継続し,
ADLの改善も行われたことで疼痛も若干軽減された.
【倫理的配慮, 説明と同意】
症例報告にあたりヘルシンキ宣言に基づき,対象者本人に説明し
同意を得た.