公共政策研究
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特集フクシマ以降の原子力政策
情報に対する権利の国際的保障の展開と原子力政策
高村 ゆかり
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2014 年 14 巻 p. 99-108

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抄録

情報に対する権利(知る権利)は,生命に対する権利や健康に対する権利などの人権の保障に不可欠の要素である。原子力活動に関する国際規律には,影響を被るおそれのある人の情報に対する権利についての義務的な定めはない。

近年,環境情報に対する権利の国際的保障が進展している。オーフス条約では,公的機関保有情報の開示請求権と公的機関による環境情報の収集,保有,普及に対する権利を広範に保障し,人の牛命や健康に対する切迫した脅威がある緊急時においてこそ,情報に対する権利を保障する国の義務の存在を明示的に定める。他方で,人権条約の下で情報に対する権利の保障も進展し,特に,ヨーロッパ人権条約の下では,生命に対する権利や私生活・家族生活の保護に対する権利のために,国は「現実のかつ差し迫った危険」があることを了知した場合個人を保護するのに必要かつ十分な防止措置をとる積極的義務を有するとされ,その防止措置の中でも情報に対する権利に特別の重要性が置かれている。

福島第一原子力発電所事故の経験を踏まえると,緊急時における情報に対する権利の保障とそれを履行するための情報収集・普及のための制度の構築,公共サービスの民営化の動向をふまえて,公共サービスを担う民間主体が保有する必要な情報が開示され,収集され,普及される法制度の構築などが必要である。放射性物質への曝露リスクのように,不確実性を伴い,しばしば長期間経過後顕在化するリスクから人をよりよく保護するには,これらの情報に対する権利の国際的保障の到達点を踏まえて原子力に関わる政策・制度を構築することが必要である。

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© 2014 日本公共政策学会
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