公共政策研究
Online ISSN : 2434-5180
Print ISSN : 2186-5868
研究ノート
システム・イノベーションをめぐるトランジション研究における「権力(関係)概念」モデルの意義と可能性
青木 一益
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2015 年 15 巻 p. 90-103

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抄録

近年,急速な発展を見る一連の「トランジション研究」は,持続可能な社会経済へと移行するための複雑で長期にわたる動態を捕捉し,重層性を帯び共進化する相互作用の過程において,いかなるシステム・イノベーションが,なぜ,どのように,(不)可能になるのかを分析するための,理論・視座の構築をはかるものである。「サステイナビリティ・トランジション」論とも形容されるここでの学術展開を背景に,本稿が考察の対象とするのは,アヴェリノ=ロットマンズによる権力(関係)概念の再構築の試みである。アヴェリノらの問題関心は,トランジション経路に看取し得る顕著に権力的な位相の自覚的・明示的な分析が依然不十分であり,また,そのことが,システム・イノベーションをめぐる理解の深化を妨げている,というものである。現状改善を企図して提示される「権力(関係)概念」モデルはサステイナビリティ・トランジションにおいて鍵となる変化(・・)の可能性と時間(・・)的スケールとの連関を,権力(・・)を媒介にしてより体系的に可視化するための枠組みを提供する。そこで,本稿では,まず,トランジション研究の射程および理論・視座の基本体系を概観した上で,アヴェリノらの当該業績のレビューを通じて,同モデルを紹介する。これを受け,本稿では,関連社会科学領域に蓄積を見る既存権力論との相互参照において,同モデルの位置付けや新規性を確認することで,その意義と可能性に検討を加える。

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© 2015 日本公共政策学会
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