2010 年 9 巻 p. 109-119
近年の教育財政支出をめぐる議論は広く公衆にも馴染み深いものとなったが,教育支出の増減がもたらす帰結の評価について実証分析に基づいた議論が行われているとは言いがたい。本稿は計量分析によって国レベルでの教育文出と成果との関係および教育支出の非効率性の要因を明らかにすることで,議論と基盤となる情報を提供するものである。中等教育段階の教育支出データと国際学習到逹度調査データ,学校組織制度に関するデータを用いてセミパラメトリック確率的フロンティアモデルおよび線形回帰モデルによって分析を行った。
分析の結果,インプットである教育支出の増減が教育生産におけるアウトプットにある程度のプラスの作用を与えるが,その効果は逓減的で,とくに平均的な支出水準を超える国においては支出増額の効果は小さいこと,日本を含めた多くの国ではアウトプット改善のために支出拡大のみならず非効率性縮減策によって袖完される必要があることが示された。また国ごとの効率性・非効率性は教育行政制度に規定されており,学校の自律性の拡大およひ評価制度の整備という双方の環境が揃った制度条件のもとでは非効率性の縮減が期待できることが明らがとなった。