2010 年 59 巻 10 号 p. 615-622
工学回折とは,回折プロファイルの正確なピーク位置,ピーク広がり,ピーク積分強度等から,それぞれ,物体内の弾性ひずみ(応力),結晶粒子サイズや格子欠陥,集合組織等を定量的に求める回折法で,工学基礎及び応用研究に適用できる。透過能力の大きい中性子回折を用いれば内部のみでなく全体の平均的な上記の情報まで得られるため,強力なツールとして期待されている。J-PARCでは中性子による工学回折を行うための工学材料回折装置「匠」が建設され,2009年度末に完成した。性能確認の調整運転がほぼ終了し,一般利用にも既に公開されている。本装置はΔd/dが0.2%以下の高い分解能を持つだけでなく,0.05nm<d<0.47nmの広い面間隔範囲をカバーし,時分割測定等に非常に有効なイベントデータ集積法を採用しているため,新材料開発や材料の安全性への貢献が期待されている。