RADIOISOTOPES
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中性子回折の基礎と応用
(応用1)中性子回折およびX線回折による水素結合型誘電体の構造解析
鬼柳 亮嗣
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2010 年 59 巻 2 号 p. 117-125

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抄録

中性子とX線を相補的に利用して,水素結合型誘電体である5-R-9-ヒドロキシフェナレノン(R=メチル基,臭素;MeHPLN, BrHPLN)の研究を行った。中性子回折データからは原子核分布,X線回折からは電子分布を求めることができる。水素結合中の水素原子の原子核分布と電子分布を比較すると,二つの分布の重心が一致していないことが明らかになり,そこに局所的な分極が発生していることがわかった。その大きさは典型的な強誘電体であるBaTiO3の分極と同程度であった。室温においては,水素原子が無秩序状態であることにより,この分極は方向に関して無秩序な状態にある。低温で実現するMeHPLNの反強誘電性は,水素原子の秩序化に伴う局所的な分極の反強誘電的な秩序化に起因することが明らかとなった。一方,BrHPLNでは,二つにわかれた電子・原子核分布となり,水素原子の秩序化は観測されなかった。これは,水素結合中の水素原子がトンネリング状態にあることを示唆している。
MeHPLNとBrHPLNの相転移を,実験的に求められたパラメータのみを用いて,トンネリングモデルに基づき検証すると,それぞれの相図を非常に良く再現できることが示された。つまり,これらの物質の相転移はトンネリングモデルで説明できることが明らかとなった。

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