RADIOISOTOPES
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中性子回折の基礎と応用(応用10)
化学における単結晶中性子構造解析
細谷 孝明大原 高志
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ジャーナル オープンアクセス

2010 年 59 巻 4 号 p. 279-287

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抄録

水素原子やプロトンが重要な役割を担う反応において,単結晶中性子構造解析はその反応機構を解明する強力な手法である。特に,水素原子やプロトンの移動はもっとも基本的で重要な現象であり,多くの有機反応,無機反応,酵素反応及び触媒反応等でしばしば観察される。本稿では,化学における単結晶中性子構造解析の応用例をいくつか紹介する。最初に金属ヒドリド錯体中の水素原子の位置を決定する研究例を挙げる。これは,水素原子が結合する金属原子の巨大な電子雲に埋もれてしまうため,X線回折では解析困難となる。次に,水素結合ネットワーク中,特に低障壁水素結合中における水素原子を決定する研究例を挙げる。中性子構造解析では水素原子の熱挙動まで含めて構造精密化が可能であるため,より詳細な議論が可能である。最後に,筆者らの研究例として,「重水素置換による標識化」と「結晶相反応」を利用した,光誘起による水素原子・プロトン移動の観察を取り上げる。ここで取り上げた多くの研究の成功によって,化学における中性子構造解析は絶えず発展してきたが,依然として単結晶中性子回折を行うにあたって多くの問題,すなわち中性子ビーム強度の弱さとそれに伴うmm単位の巨大な試料結晶の要求,を抱えている。しかし今,日本のJ-PARCで稼働中のiBIX単結晶中性子回折計を含む,次世代パルス中性子源での新しい強力な装置によってこれらの壁が取り払われつつあり,化学における単結晶中性子構造解析の飛躍的な発展が期待される。

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