2015 年 64 巻 5 号 p. 351-363
低速中性子は,物質中の原子・分子運動のエネルギーと同じ程度のエネルギーを有するため,散乱過程においてエネルギーのやり取り・すなわち非弾性・準弾性散乱が起こる。高分子を含むソフトマターは,分子が持つ自由度故に非常に広い時間・空間スケールにおいてダイナミクスが構造と同様に階層的に存在する。しかしながら小角散乱などにより行われる構造解析と比較すると,ソフトマター系における中性子によるダイナミクス測定はそれほど活発に行われていない。ソフトマターの機能・物性を十分に理解するためには構造のみならずダイナミクスを調べることが必要不可欠である。本稿においては,主に固体状態の高分子のダイナミクスに注目して,(1)低エネルギー励起,(2)結晶弾性率の評価,(3)局所緩和過程“速い過程”,(4)ガス透過と局所的ダイナミクスとの相関の4点を選び解説した。