2016 年 65 巻 1 号 p. 23-33
フラストレーションは物質中にも存在し,現代磁性学や強相関電子系分野を牽引する基本概念の一つである。フラストレート磁性体において,スピン系は,磁気結合エネルギーよりずっと低い温度へ下げても磁気的な固体(静的磁気長距離秩序)へ成長できず,特異な液体状態を形成する。スピネル酸化物におけるスピン分子モードはその代表例であり,1 nm以下の美しい幾何学図形に閉じ込められたスピン運動の描像を表す。我々の中性子非弾性散乱研究を中心に,スピン分子モードの発見から近年の成果までを紹介したい。