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湛水土壌表面水中の微生物によるテクネチウムの不溶化
石井 伸昌田上 恵子
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2003 年 52 巻 10 号 p. 475-482

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抄録

水田生態系におけるテクネチウムの動態を明らかにするために, 湛水土壌の表面水におけるテクネチウムの不溶化とその要因について研究を行った。
日本各地14地点より採取した風乾土壌に0.3%グルコース水を添加し, 湛水状態において7日間培養した。この湛水土壌から表面水のみを回収し, トレーサとして可溶性の95mTcO4-を添加した。そして, 更に4日間静置培養した。培養後, 添加した95mTcを次の四つの物理化学形態に分別した: 1) 不溶化テクネチウム, 2) 過テクネチウム酸イオン, 3) 陽イオン形態のテクネチウム, そして4) その他の形態のテクネチウム。
表面水に添加した95mTcO4-は, 1.6%から76%まで様々な割合で不溶化し, その平均値は12.7%であった。この結果から, 可溶性のTcO4-は表面水中で不溶化すること, そしてその割合は土壌の種類により異なることが分かった。次に不溶化したテクネチウムの割合が最大となったサンプルを用い, 不溶化の要因について検討した。表面水中に存在する微生物をろ過処理により除いたとき, テクネチウムの不溶化は3.6%に減少した。一方, 有機物添加により微生物活性を促したときは, 不溶化の割合が85.7%に増加した。つまり, テクネチウムの不溶化は微生物により引き起こされたことが示された。また抗細菌性抗生物質を添加したときには, 不溶化の割合は23.4%に減少したが, 抗真菌性抗生物質の添加は不溶化の増減に影響しなかった。以上のことから, 表面水中におけるテクネチウムの不溶化は細菌により引き起こされることが分かった。また, 抗細菌性抗生物質による不溶化の減少は, 生きている細菌による不溶化, つまり生物蓄積 (bioaccumulation) により不溶化が引き起こされたことを示唆している。本実験の培養は好気的雰囲気のもとで行った。したがって, テクネチウム不溶化細菌は好気性細菌の可能性がある。

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