2003 年 52 巻 11 号 p. 585-598
日本アイソトープ協会医学薬学部会サイクロトロン核医学利用専門委員会のFDG-PET合同ワーキンググループと日本核医学会では, 痴呆の診断のためのFDG-PET検査について, 全国のPET施設を対象に実態調査を行った。15施設から1年間に計406例の症例データが提供された。検査目的としては, 記憶障害を訴える患者に対するアルツハイマー型痴呆症の早期診断を目的とするものと (目的A, 154例) , 痴呆をきたす変性疾患の鑑別診断を目的とするもの (目的B, 144例) が多かった。ほとんどの例でPETによってその目的が達成されたか, 又はほぼ達成された。また, PET
を施行すれば脳血流SPECTを省略できると考えられた。更に, PETで初めてアルツハイマー型痴呆症と診断された患者にドネペジルによる薬物治療を行えば, 病気の進行を遅らせることによって介護費用を節減でき, PETも治療も行わない場合に比べて1例あたりの2年間の医療費+介護費が, 目的Aで6.15万円, 目的Bで1.37万円, それぞれ削減できると推定された。一方で患者のQOLが向上し, 治療開始後2年間のQALY (Quality Adjusted LifeYear, QOLで加重した生存年) は, 1例あたり目的Aで0.0442, 目的Bで0.0137, それぞれ増加した。したがってPETの導入は医療経済的に「優位」であると考えられた。我が国全体では, 目的Aの対象となる患者を毎年約9000人と推定すると, 痴呆の早期診断へのPETの導入によって毎年5.5億円の費用削減と健常者398人分に相当するQOLの向上が得られると推定された。