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T-for-H交換反応における脂環式アルコール及びカルボン酸の速度論的反応解析
田村 潔今泉 洋狩野 直樹
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2007 年 56 巻 10 号 p. 593-603

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抄録

トリチウム (3H又はT) が環境中の種々の物質の官能基に及ぼす影響を定量評価するために, T標識ポリ (ビニルアルコール) と各種脂環式アルコール (又はカルボン酸) との間の水素同位体交換反応 (T-for-H交換反応) を, 50~90℃の温度範囲で固液反応の形で観測した。得られた観測データにA″-McKayプロット法を適用することで, この反応の速度定数 (k) を得た。このkを用いることで, 各試料物質の環中の炭素数とその物質の反応性との関係を定量比較することができた。更に, 各試料物質のOH基 (又はCOOH基) のH原子に直結する0原子上の相対電荷が反応性に及ぼす影響を明らかにするため, MOPAC法を用いた。以上の結果と以前得られた結果とから, T-for-H交換反応における脂環式アルコール (及びカルボン酸) に関して, 次のことがわかった。 (1) 脂環式アルコール (及びカルボン酸) の反応性は, 温度に依存する。 (2) その物質中の官能基が直結している母体の炭素数が増加するにつれ, 反応性は低下する。 (3) 脂環式カルボン酸の反応性は脂環式アルコールよりも低く, 脂環式アミンより高い傾向にある。 (4) MOPAC法により求められた0原子の相対電荷とkとの間には, アルコールについては相関性があるが, カルボン酸については顕著な関係は認められない。 (5) 側鎖を持つ脂環式カルボン酸は, これを持たないものよりも反応性が低い。 (6) 脂環式カルボン酸は脂肪族直鎖状カルボン酸よりも反応性が高いと推測される。 (7) 目的物質の溶媒として1, 4一ジオキサンを用いるとp-キシレンを用いたときよりも反応性が低くなる傾向がある。 (8) MOPAC法とA″-McKayプロット法とを用いると, 各種脂環式化合物の実態的分析が一層可能となる。 (9) 本研究で行った種々の手法は, 環境に及ぼすTの影響評価を行うための手法として有用である。

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