2014 年 20 巻 p. 33-46
本稿は、ネパールの首都カトマンドゥにある世界遺産の仏教聖地、ボーダナートで土産物として販売される、チベット難民が歌うマントラCDの商品化過程を対象とするものである。現在、欧米やアジアからやってくる観光客に癒しやリラックスを与えると言われるマントラCDがボーダナートで制作されている。70年代以降、欧米を中心に消費されているマントラCDの土産物としての商品化は、観光地に暮らす人々にとって儲けのチャンスである。本稿では、マントラCDの商品化という、様々な参加者が莫大な経済的益を得、それを通じて彼らが世界市場への展開を試みる観光地のビジネスを「下からのワールド・ミュージック化」と捉える。その過程に様々な思惑をもって参与する複数のアクターの実践や意味づけに着目することで、宗教ツーリズムの進展の中で新たに見出された宗教実践を提示するとともに、チベット難民が暮らす現在の複雑な社会状況を明示することを目的とする。