宗教と社会
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殉職者はいかにして企業守護神となりえたか : 「安全」理念の実践をめぐる労使間のポリティクスを中心に
金子 毅
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2003 年 9 巻 p. 21-41

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抄録

本稿のテーマは、労働災害という異常な死を「殉職」へと転換させる企業主催の慰霊行為を、祖先祭祀の枠組から捉えつつ、近代産業化の遂行の過程で導入された外来の「安全」理念の労使双方による主体的受容とのかかわりからこれを論ずることにある。「安全」遵守は、就業中の事故が労災か、本人の過失による事故かを見極める基準とされたがゆえに、雇用者には企業利益を守るための「戦略」として用いられる一方で、労働者には労災補償を得るための「戦術」として受容され、「ハビチュアル・レスポンス」としての身体の主体的構築を促すことになった。その結果、殉職者は「安全」理念に殉じた者として語られ、また殉職者慰霊は雇用者には企業永続のための一種の祖先祭祀として、労働者には無辜の仲間の死を悼む場として営まれつつ、「安全」の相互補完的受容が再確認される場になったと考えられる。

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