理学療法学
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研究論文(原著)
慢性心不全患者に対する包括的訪問リハビリテーションによる身体機能の推移
古田 佳祐 大浦 啓輔齊藤 正和鬼村 優一弓野 大
著者情報
ジャーナル オープンアクセス HTML

2025 年 52 巻 4 号 p. 198-206

詳細
要旨

【目的】慢性心不全患者に対する訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)が下肢機能に及ぼす影響を,訪問リハ開始時の日常生活動作能力(Activities of Daily Living:以下,ADL)レベルおよび要介護度別に検討することとした。【方法】訪問リハを実施した心不全患者116例をBarthel Index得点および要介護度別にそれぞれ3群に分類し,開始時と3ヶ月後のShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)得点および変化割合を比較した。【結果】全対象のSPPB得点は3ヶ月後に有意に改善した(p<0.001)。また,ADLレベル別・要介護度別に分類した3群間でSPPB改善,維持,低下の分布が有意に異なっていた(p<0.05)。【結論】訪問リハにより下肢機能を維持・改善できる可能性が示唆され,ADLレベルや要介護度によりSPPB得点変化の傾向が異なっていた。

Abstract

Objective: This study aims to investigate the outcome of home-visit rehabilitation on lower limb function in patients with chronic heart failure (CHF), based on their baseline activities of daily living (ADL) and long-term care classification.

Methods: A total of 116 patients with CHF (mean age 83±10 years, 55% female) who received home-visit rehabilitation were involved in this study. Patients were categorized into three groups based on their ADL levels, assessed using the Barthel Index (independent, mildly dependent, and moderately to severely dependent), and their long-term care classification (support level, care levels 1–2, and care levels 3–5) at the initiation of home-visit rehabilitation. Changes in physical function were evaluated using the Short Physical Performance Battery (SPPB). Based on their SPPB score, patients were classified into three groups (improved, maintained, or declined).

Results: After three months of home-visit rehabilitation, SPPB scores showed significant improvement (p<0.001). A significant association was observed between baseline ADL level and changes in SPPB scores (improved, maintained, and declined: 41.9%, 32.3%, and 25.8%, respectively, in the independent group; 60.3%, 20.6%, and 19.0%, respectively, in the mildly dependent group; and 36.4%, 54.5%, and 9.1%, respectively, in the moderately to severely dependent group). Similarly, the long-term care was significantly associated with changes in SPPB scores.

Conclusion: This study suggests that home-visit rehabilitation can improve physical function in patients with CHF by maintaining or enhancing their mobility. The initial ADL level and long-term care may also have influence in physical function following home-visit rehabilitation.

はじめに

循環器疾患診療実態調査報告書(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases: JROAD)では心不全入院患者数は2016年の23万人から2020年には28万人へと増加している1。また心不全の大規模登録研究であるJapanese Cardiac Registry of Heart Failure in Cardiology(JCARE-CARD)2では,心不全増悪による再入院率が高いことが報告されている。さらに,国民医療費のうち年齢別では65歳以上が全体の60%以上を占め,その中でも傷病分類別では循環器疾患が最も多く24.2%を占める3。高齢者人口の増加に伴い,高齢心不全の新規発症者数も年々増加すると予測され4,今後医療費高騰がさらに大きな社会問題になると考えられる。このような状況から健康寿命の延伸を目標に,2018年には脳卒中・循環器病対策基本法5が成立し,超高齢社会を迎えるわが国において心不全再入院予防のための医療制度体制の確立が喫緊の課題となっている。

運動療法を中心とした心臓リハビリテーション(以下,心リハ)は,心不全再入院予防に有用6であることが示されており,心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドラインにおいても,退院後に心不全患者に対し運動療法や疾病管理プログラムを含んだ包括的心リハ介入を行うことが推奨されている7。しかしながら,本邦における心不全患者の外来心リハは実施率が7%と極めて低いのが現状である8。特に高齢心不全患者では,重複障害や交通を理由に外来心リハへの参加率が低いことが課題とされている9。外来心リハに通院困難な高齢心不全患者に対する在宅支援として心血管疾患患者に対する機能改善,生活支援,疾病管理支援を含む包括的訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の需要が高まっていると言える。しかし,全国の通所・訪問リハ事業所へのアンケート調査10によると,訪問リハが必要となった原因疾患のうち心不全はわずか7.6%に過ぎない。また,介護保険制度下で訪問リハを実施するにはケアマネジャーの協力や理解が重要だが,ケアマネジャーの心不全に対する疾患理解が浅いこと,心不全患者に対する不安を抱えているケアマネジャーが多いことが報告されて11おり,心不全患者に対する訪問リハの安全性や有用性を明らかにする必要性は高い。

さらに,心不全の主要症状である呼吸困難感は日常生活動作能力(Activities of Daily Living:以下,ADL)遂行を制限する重要な因子であり,心不全患者はその軽減のためにADLの難易度に応じた遂行時間の調整など,代償的行動をとるとされる12。このため,心不全の重症度がADLに与える影響は大きいが,要介護度は必ずしも実際の生活上の制限や支援・介助量を正確に反映するとは限らない。したがって,ADLレベルおよび要介護度ごとの下肢機能の変化を明らかにすることは,訪問リハの適切な介入を検討する上で重要である。

そこで本研究では,慢性心不全患者に対する包括的訪問リハの安全性および下肢機能への影響を,訪問リハ開始時のADLレベルおよび要介護度別に検討することを目的とした。

対象および方法

1. 対象

2018年3月から2022年7月の間に医療法人社団ゆみの(以下,当法人)が開設した4つの診療所にて訪問リハを開始した心不全患者のうち,訪問リハ開始時と訪問リハ開始後3ヶ月の2時点で下肢機能の評価を行えた患者を対象とした。除外基準は,必須評価項目に欠損のあった患者,心不全の病態が終末期の患者とした。本研究は,診療録記録調査による後方視的観察研究である。

本研究はヘルシンキ宣言および日本の臨床研究に関する倫理指針に基づき実施され,対象者に対してはゆみのハートクリニックのホームページにてオプトアウト形式で通知・公開した。本研究は,順天堂大学保健医療学部の倫理審査委員会にて承認を得た(実施許可番号00129)。

2. 測定項目

基本情報として年齢,性別,Body Mass Index(以下,BMI),血液生化学検査として診療開始時のアルブミン値(Albumin:以下,Alb),ヘモグロビン値(Hemoglobin:Hb),推定糸球体濾過量(estimated Glomerular Filtration Rate:eGFR),N-Terminal pro-B-type Natriuretic Peptide(以下,NT-proBNP),心臓超音波検査の所見として左室駆出率(Left Ventricular Ejection Fraction:LVEF),心不全分類(Heart Failure with reduced Ejection Fraction:HFrEF, Heart Failure with mid-range Ejection Fraction:HFmrEF, Heart Failure with preserved Ejection Fraction:HFpEF),心不全入院歴の有無,New York Heart Association(以下,NYHA)心機能分類,心不全基礎疾患,生活環境,訪問リハ頻度,介護サービス,要介護度,訪問リハでの有害事象として訪問リハ実施に伴う入院加療を必要とする心不全増悪,訪問リハ実施中の転倒・転落の有無を研究開始時に診療録より調査した。ADL能力の評価はBarthel Index(以下,BI),下肢機能の評価はShort Physical Performance Battery(以下,SPPB)を調査した。SPPBの評価は訪問リハ開始時と訪問リハ開始後3ヶ月の2時点とした。

1)要介護度

介護保険制度では,常時介護を必要とする状態(要介護状態)や介護予防サービスが効果的な状態(要支援状態)になった場合に,介護の必要度合いに応じた介護サービスを受けることができる。この要介護状態や要支援状態にあるかどうかの程度判定を行うのが要介護認定であり,介護の必要量を全国一律の基準に基づき,客観的に判定し要支援1~2,要介護1~5に分類される。

2)Barthel Index

BI13は「食事」「車椅子からベッドへの移動」「整容」「トイレ動作」「入浴」「平地歩行」「階段昇降」「更衣」「排便コントロール」「排尿コントロール」の10項目から構成され,各項目を自立度に応じて15点,10点,5点,0点のいずれかで採点し点数が高いほどADL自立度が高いことを示す(得点範囲0~100点)。

3)Short Physical Performance Battery

SPPB14はバランス,4m歩行,5回椅子立ち座りの3種類のテストを行い,それぞれの結果を4点満点で評価し,その合計点(0~12点)を指標とする。合計得点が高いと下肢機能が高いことを示す。SPPBの臨床的に意義のある最小変化量(Minimal Clinically Important Difference:以下,MCID)は0.5~1点1517とされており,先行研究18において1点以上の低下が将来的な移動障害の発生リスクに関連するとも報告されている。そこで,本研究ではSPPBの得点変化(以下,ΔSPPB)について,訪問リハ開始時と比較し訪問リハ開始後3ヶ月においてSPPB合計得点が1点以上改善した場合を改善,同値だった場合を維持,1点以上低下した場合を低下と定義しカテゴリー変数化した。

3. 訪問リハビリテーション

対象者への介入は120分/週を上限とし,1回あたり40~60分,週1~2回の頻度で理学療法士または作業療法士が実施した。訪問リハの実施にあたっては,定期的な医師の診察に加え,看護師,医療ソーシャルワーカー,ケアマネジャーといった多職種が連携し,適宜情報を交換しながら訪問リハの目標や介入内容について協議した。なお,当法人の理学療法士および作業療法士は実務経験5年以上のスタッフで構成されており,定期的な勉強会および症例検討会の開催に加え,リスク管理,アセスメント,目標設定,介入方法に関する具体的な手順を記したマニュアルを作成して教育を行っている。訪問リハの内容は,日本循環器学会の心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(以下,ガイドライン)7に基づき,運動療法に加えセルフケア支援,環境調整,家族介護支援,疾病管理指導・教育を含む包括的プログラムを個々の症例に応じて実施した。運動療法プログラムは患者の心不全重症度(NYHA心機能分類)と運動機能を目安に実施内容を変更し(図1),運動前後の血行動態や自覚症状に加えNT-proBNP測定値,訪問リハ実施日以外を含めた息切れ,体重変化,浮腫といった心不全所見についての確認および聞き取りなどを参考に負荷量の調整を行った。

図1 訪問リハの運動療法プログラム

患者の心不全重症度と運動機能に応じ,運動療法の種目および負荷量を調整している。

IADL: Instrumental Activities of Daily Living, ADL: Activities of Daily Living, NYHA: New York Heart Association心機能分類.

4. 統計解析

SPPBの得点変化を比較するために,対象をADLレベルと要介護度別にそれぞれ3群に分類した。ADLレベル別の比較では,先行研究1920と同様に訪問リハ開始時のBIの点数によりADL自立群(BI≧95),軽度ADL低下群(90>BI≧60),高度ADL低下群(BI<60)の3群とし,要介護度別の比較では,先行研究2122と同様に訪問リハ開始時の要介護度で要支援群,要介護1~2群,要介護3~5群の3群とした。なお,要介護度別の比較の際,要介護・要支援の認定のなかった患者は除外した。

3群において,連続変数は一元配置分散分析およびTukey法による多重比較を,カテゴリー変数はχ2検定を行った。結果は,連続変数については平均値±標準偏差で記載した。統計解析には統計解析ソフトIBM SPSS Statistics 27を用い,いずれの解析も有意水準は5%とした。

結果

2018年3月から2022年7月の間に訪問リハを開始した心不全患者268例のうち,訪問リハ開始時と訪問リハ開始後3ヶ月の2時点で下肢機能の評価を行えた144例から除外基準に該当した28例を除いた116例(年齢83.1±9.9歳,女性62例,男性54例)を解析対象とした(図2)。除外基準に該当した患者の内訳は,必須評価項目に欠損のあった患者23例,心不全の病態が終末期の患者5例であった。116例全てにおいて,訪問リハ実施に伴う心不全増悪や実施中の転倒・転落といった有害事象は認めなかった。

図2 対象者の選択基準

表1にADLレベル別の対象者基本情報について示す。解析対象116例のうち,ADL自立群は31例(26.7%),軽度ADL低下群は63例(54.3%),高度ADL低下群は22例(19.0%)であった。年齢は高度ADL低下群がADL自立群に比べ有意に高く(p<0.05),BMIは軽度ADL低下群と高度ADL低下群がADL自立群に比べそれぞれ有意に低く(p<0.05),Albは高度ADL低下群がADL自立群,軽度ADL低下群に比べそれぞれ有意に低かった(p<0.05)。訪問リハ開始時のSPPBは,合計得点および全ての下位項目において,高度ADL低下群がADL自立群および軽度ADL低下群に比べ有意に低値で,軽度ADL低下群はADL自立群に比べ有意に低値であった(p<0.05)。要介護認定は,ADL自立群では要支援が8例(28.6%),要介護1~2が15例(53.6%),要介護3~5が5例(17.9%),軽度ADL低下群では要支援が9例(16.4%),要介護1~2が23例(41.8%),要介護3~5が23例(41.8%),高度ADL低下群では要支援が0例(0.0%),要介護1~2が3例(14.3%),要介護3~5が18例(85.7%)と認定状況が有意に異なっていた(p<0.001)。要介護・要支援認定のなかった12例を除いた104例を要介護度別に分類すると,要支援群17例(16.3%),要介護1~2群41例(39.4%),要介護3~5群46例(44.2%)であった。

表1 ADLレベル別の対象者基本情報比較

全例(n=116)ADL自立群(n=31)軽度ADL低下群(n=63)高度ADL低下群(n=22)p値
年齢(歳)83.1±9.979.6±11.783.4±9.387.4±7.3*0.017a
性別(男性)54 (46.6)13 (41.9)32 (50.8)9 (40.9)0.606b
BMI (kg/m220.4±3.621.9±2.820.0±3.7*19.0±3.5*0.013a
血液生化学検査
Alb (g/dL)3.5±0.43.7±0.43.5±0.43.2±0.3*<0.001a
Hb (g/dL)11.3±1.711.4±1.911.3±1.711.0±2.00.680a
eGFR (mL/min/1.73m240.0±15.140.9±15.839.4±14.440.6±17.00.905a
NT-proBNP (pg/mL)4260±47223032±22464619±57765197±38870.502a
LVEF (%)45.4±15.746.9±15.444.8±16.845.5±12.70.838a
心不全分類0.131b
HFrEF36 (31.0)9 (33.3)23 (37.7)4 (21.1)
HFmrEF18 (15.5)4 (14.8)7 (11.5)7 (36.8)
HFpEF53 (45.7)14 (51.9)31 (50.8)8 (42.1)
心不全入院歴あり93 (80.2)22 (71.0)53 (84.1)18 (81.8)0.326b
NYHA0.081b
I6 (5.2)3 (9.7)2 (3.2)1 (4.5)
II63 (54.3)22 (71.0)28 (44.4)13 (59.1)
III44 (37.9)5 (16.1)31 (49.2)8 (36.4)
IV3 (2.6)1 (3.2)2 (3.2)0 (0.0)
心不全基礎疾患0.534b
虚血27 (23.3)8 (25.8)14 (22.2)5 (22.7)
弁膜症30 (25.9)8 (25.8)14 (22.2)8 (36.4)
高血圧12 (10.3)3 (9.7)6 (9.5)3 (13.6)
拡張型心筋症8 (6.9)4 (12.9)4 (6.3)0 (0.0)
心房細動14 (12.1)4 (12.9)6 (9.5)4 (18.2)
肥大型心筋症10 (8.6)2 (6.5)7 (11.1)1 (4.5)
その他15 (12.9)2 (6.5)12 (19.0)1 (4.5)
訪問リハ開始時
SPPB(点)
合計5.4±3.98.6±2.85.3±3.2*1.1±2.2*<0.001a
バランス2.3±1.63.5±0.92.4±1.5*0.5±1.0*<0.001a
歩行1.6±1.22.5±1.21.5±1.0*0.3±0.5*<0.001a
立ち座り1.5±1.52.5±1.21.4±1.4*0.3±0.9*<0.001a
訪問リハ頻度週1回/週2回(%)94 (81.0)/22 (19.0)27 (87.1)/4 (12.9)51 (81.0)/12 (19.0)16 (72.7)/6 (27.3)0.421b
生活環境0.119b
同居85 (73.3)23 (74.2)44 (69.8)18 (81.8)
独居23 (19.8)8 (25.8)14 (22.2)1 (4.5)
施設8 (6.9)0 (0)5 (7.9)3 (13.6)
介護サービス
訪問看護77 (66.4)17 (54.8)42 (66.7)18 (81.8)0.122b
訪問介護47 (40.5)9 (29.0)27 (42.9)11 (50.0)0.264b
通所サービス14 (12.1)6 (19.4)7 (11.1)1 (4.5)0.249b
要介護度<0.001b
要支援17 (16.3)8 (28.6)9 (16.4)0 (0.0)
要介護1~241 (39.4)15 (53.6)23 (41.8)3 (14.3)
要介護3~546 (44.2)5 (17.9)23 (41.8)18 (85.7)

※:要介護認定のなかった12例を除外した104例を対象として比較.

連続変数:平均値±SD,名義変数:n(%).a:一元配置分散分析,b:χ2検定.*:Tukey法,p<0.05 vs. ADL自立群,†:Tukey法,p<0.05 vs. 軽度ADL低下群.

BMI: Body Mass Index, Alb: Albumin, Hb: Hemoglobin, eGFR: estimated Glomerular Filtration Rate, NT-proBNP: N-Terminal pro-B-type Natriuretic Peptide, LVEF: Left Ventricle Ejection Fraction, HFrEF: Heart Failure with reduced Ejection Fraction, HFmrEF: Heart Failure with mild reduced Ejection Fraction, HFpEF: Heart Failure with preserved Ejection Fraction, NYHA: New York Heart Association心機能分類, SPPB: Short Physical Performance Battery.

ADLレベル別と要介護度別の訪問リハ開始時と3ヶ月後のSPPB得点の比較をそれぞれ表2表3に示す。ADLレベル別の全症例では5.4±3.9点から6.3±3.9点へと有意に改善し(p<0.001),軽度ADL低下群において5.3±3.2点から6.3±3.2点へと有意に改善した(p<0.001)。介護保険認定のあった104例の要介護度別の比較でも,全症例で5.1±3.9点から5.9±3.9点へと有意に改善し(p<0.001),要支援群,要介護1~2群もそれぞれ5.5±3.3点から7.0±3.3点,6.4±4.0点から7.1±3.5点へと有意に改善した(それぞれp=0.002, p=0.046)。

表2 ADLレベル別訪問リハ開始前後のSPPB得点比較

訪問リハ開始時3ヶ月後平均差(95%CI)p値
全症例(n=116)5.4±3.96.3±3.90.9 (0.5, 1.3)<0.001
ADL自立群(n=31)8.6±2.89.1±3.10.5 (−0.1, 1.1)0.080
軽度ADL低下群(n=63)5.3±3.26.3±3.21.1 (0.5, 1.6)<0.001
高度ADL低下群(n=22)1.1±2.22.0±2.70.9 (0.0, 1.7)0.054

平均値±SD.平均差は3ヶ月後−開始時.95%CI: 95%信頼区間.

表3 要介護度別訪問リハ開始前後のSPPB得点比較

訪問リハ開始時3ヶ月後平均差(95%CI)p値
全症例(n=104)5.1±3.95.9±3.90.8 (0.4, 1.2)<0.001
要支援群(n=17)5.5±3.37.0±3.31.5 (0.7, 2.4)0.002
要介護1~2群(n=41)6.4±4.07.1±3.50.7 (0.0, 1.4)0.046
要介護3~5群(n=46)3.9±3.84.4±4.00.6 (0.0, 1.2)0.053

平均値±SD.平均差は3ヶ月後−開始時.95%CI: 95%信頼区間.

ΔSPPBの患者割合は,ADLレベル別(p=0.031),要介護度別(p=0.039)ともにSPPB改善,維持,低下の分布が3群で有意に異なっていた(図3)。ADLレベル別では,改善がADL自立群で13例(41.9%),軽度ADL低下群で38例(60.3%),高度ADL低下群で8例(36.4%),維持がADL自立群で10例(32.3%),軽度ADL低下群で13例(20.6%),高度ADL低下群で12例(54.5%),低下がADL自立群で8例(25.8%),軽度ADL低下群で12例(19.0%),高度ADL低下群で2例(9.1%)であった。要介護度別では,改善が要支援群で13例(76.5%),要介護1~2群で19例(46.3%),要介護3~5群で20例(43.5%),維持が要支援群で2例(11.8%),要介護1~2群で11例(26.8%),要介護3~5群で20例(43.5%),低下が要支援群で2例(11.8%),要介護1~2群で11例(26.8%),要介護3~5群で6例(13.0%)であった。

図3 ADLレベル別,要介護度別ΔSPPBの患者割合比較

χ2検定.

改善:ΔSPPB≧1,維持:ΔSPPB=0,低下:ΔSPPB≦1.

考察

心不全患者に対し3ヶ月間の包括的訪問リハを実施した結果を訪問リハ開始時のADLレベルで分類すると,下肢機能の指標であるSPPBが改善した割合は,それぞれADL自立群41.9%,軽度ADL低下群60.3%,高度ADL低下群36.4%であった。同様に要介護度別のSPPBが改善した割合は,要支援群で76.5%,要介護1~2群で46.3%,要介護3~5群で43.5%であった。ADLレベル,要介護度別のいずれの分類においても下肢機能の変化状況の分布が有意に異なっていた。

1. 訪問リハの安全性について

本研究の対象は平均年齢83.1±9.9歳と高齢であったにも関わらず,先行研究23と同様に解析対象全例において評価期間中に心不全増悪や訪問リハ実施中の転倒・転落といった有害事象を起こすことなく,訪問リハを実施することができた。高齢心不全患者には併存症の多さ,運動機能障害の存在,フレイルの合併といった特徴がある24ため,運動療法を含む訪問リハの実施には注意を要する患者が多い。今回,定期的な医師の診察による疾病管理の下,個々の患者の心不全重症度と運動機能に応じて運動強度および活動量を調整した結果,安全に訪問リハを実施できたものと考えられる。また,解析対象の66.4%が訪問看護を利用しており,ガイドライン7にて推奨されている職種間連携による包括的介入を行えたことも,有害事象を回避できた要因の一つと考えられる。

2. 訪問リハ開始時のADLレベルと下肢機能の推移

軽度ADL低下群は,訪問リハ開始時と比較し3ヶ月後にSPPBが有意に改善しており,約60%の患者でSPPBが改善していた。BIは60点が部分自立と介助のカットオフ25とされるため,軽度ADL低下群は部分自立とされるADLレベルの患者群といえる。また,軽度ADL低下群の訪問リハ開始時SPPB得点は5.3±3.2点であり,下肢機能が中等度低下14した患者が多い患者群でもあったと考えられる。先行研究では,入院中のフレイル心不全患者に対する心リハ介入26や心不全患者に対する12週間の回復期心リハ27において,SPPB改善効果が報告されている。本研究の結果より,ADLが部分介助レベルで下肢機能が中等度低下した訪問リハの対象となるような高齢心不全患者であっても,適切な包括的訪問リハを実施することで,先行研究と同様に下肢機能の改善を得られる可能性が示唆された。

高度ADL低下群では,訪問リハ開始時と比較しSPPBは有意な改善および低下を認めず,SPPBが改善した患者割合は36.4%であった。高度ADL低下群の訪問リハ開始時のSPPB得点は1.1±2.2点であり,ADLに介助を要するうえに下肢機能が重度低下していた症例が多かったといえる。加えて,本群のΔSPPBが維持と判定された12例中10例は訪問リハ開始時のSPPBが0点であり,床効果により下肢機能低下が検出されにくかった可能性がある。ガイドライン7では,心不全患者への訪問リハの介入内容として運動療法に加え,セルフケア支援,環境調整,家族介護支援が重要であるとしている。諸冨ら28は,在宅療養を要する心疾患患者は体力やQuality of Life(以下,QOL)の向上に向けたアプローチだけでなく,現状の心不全の状態や身体機能でも継続できる安全な日常生活や満足のある暮らしづくりが重要であると述べている。また,心不全患者に対する3ヶ月間の訪問リハの効果を検討した先行研究23では,社会生活機能が有意に向上したのに対しSPPBの改善度には有意差を認めず,その原因として心不全では体調に左右されやすいため十分な運動療法を施行できていなかった可能性を指摘している。以上を踏まえると,高度ADL低下群では訪問リハ開始時のADLと下肢機能が重度低下していた患者が多かったため,セルフケア支援や環境調整,家族介護支援が訪問リハのニーズとして高く,運動療法以外の介入内容の割合が多くなり,下肢機能を改善させ得るだけの十分な強度と量の運動療法が実施できていなかった可能性が考えられる。しかし,心不全患者に対する訪問リハの目標は「生活機能が低下した者に対するADL・Instrumental ADL(IADL)の維持・向上」と「社会参加への支援」とされており,さらに「緩和・終末期ケア」における役割も期待されている7。したがって,高度ADL低下群においてSPPB維持は54.5%であり,改善した36.4%と合わせて,90%近くの症例で下肢機能を改善または維持できており,平均得点の有意な低下も生じなかったということは,高度にADLが低下した心不全患者に対する訪問リハの効果を示唆する結果であるとも捉えられる。

心不全は進行性の臨床症候群であり,高齢心不全患者においてはサルコペニアが予後規定因子のひとつとして報告されている29。本研究の対象は平均SPPB得点が5.4±3.9点であり,サルコペニアの診断基準の一つであるSPPB9点以下30に該当する患者が多く含まれていた。さらに本研究の対象は平均年齢83.1±9.9歳であり,Paneroniら31の研究対象の平均71±5歳や,Yamamotoら32のシステマティックレビューに含まれるランダム化比較試験の93%において平均年齢が79歳以下であることと比較してもより高齢な患者が多かったと考えられる。すなわち,本研究において訪問リハの対象となった心不全患者は予後不良リスクが高く,心リハによるADL31や運動耐容能32の改善が報告された先行研究の対象と比較しても,より高齢な患者群であったといえる。本研究においてADLレベルに関わらずSPPBの有意な低下が生じなかったことは,心不全患者に対する訪問リハの有用性を示唆する結果になると考えられた。

3. 訪問リハ導入時の要介護度分類別の下肢機能の推移

要介護度別の分類においても,ΔSPPBの患者分布は有意に異なっており,要支援群と要介護1~2群ではSPPB平均得点が訪問リハ開始時と比較し3ヶ月後に有意に改善していた。要支援群と要介護1~2群の訪問リハ開始時のSPPBはそれぞれ5.5±3.3点,6.4±4.0点であり,先述した軽度ADL低下群と同程度の下肢機能の患者群であったといえる。そのため,軽度ADL低下群と同様の下肢機能のトレーナビリティを有しており,3ヶ月の訪問リハによりSPPBの改善を得られた可能性が考えられる。要介護度は心不全患者の再入院および死亡率の予後規定因子であると報告33されているが,要介護認定は介護サービスの必要度を判断するものであり,疾病の重症度と要介護度の重症度が必ずしも一致しない場合があるため34,要介護度が同一であっても幅広いADLレベルや下肢機能の患者が含まれる可能性が考えられる。また,訪問リハ実施患者は非訪問リハ実施患者に比べ要介護認定更新時に要介護認定が軽度化する傾向にあったと報告35されており,訪問リハ開始時の要介護度はその後の経過次第で変化し得るものである。そのため,訪問リハ開始時の要介護度が重度な症例であっても訪問リハ介入により下肢機能を維持または改善できる可能性があり,機能的な予後に関しては,要介護度の数字のみから推測するのでなく実際の患者の全身状態や身体機能を直接評価する必要があると考えられる。

ガイドラインでは2021年改訂版7から訪問リハについての記述が追加され,心不全患者に対する訪問リハの普及が期待されているが,包括的訪問リハの効果に関する報告は未だ少ない2336。本研究は,心不全患者に対する包括的訪問リハの実施によって多くの症例で下肢機能を維持・改善できることを示せたという点で意義があると考える。心不全患者への包括的訪問リハの普及のためには,医師やケアマネジャーといった他職種に対しその効果を示すことが必要である。そのためには,下肢機能のみならず,ADL,自覚症状,QOL,介護負担度などのアウトカムも含めて検討すること,訪問リハのみならず,訪問看護や訪問介護との連携などの相乗効果などについても検討することが重要と考えられる。

4. 研究の限界

本研究にはいくつかの限界がある。第1に後方視的研究であるため対象者抽出の際にデータ不備の症例を除外しており,選択バイアスが懸念される。さらに,解析対象数が減少したため,検出力不足によるタイプⅡエラーの可能性が否定できない。第2に下肢機能に影響を及ぼす可能性が高い要因である訪問リハの介入内容,時間,頻度についてのデータや併存疾患のデータを含めた解析を行えていない。さらに,本研究の対象者には訪問リハの目標が機能およびADLの改善である例と,維持である例が含まれており,結果に影響を与えた可能性がある。より精度の高い結果を得るためには,除外症例数を最小限とし訪問リハの実施状況や併存疾患などのデータを含めた前向き研究の実施が必要である。第3に本研究では単変量解析しか行っておらず,SPPB得点を目的変数とした多変量解析を行っていない。本研究の結果のみで,各要因と下肢機能の因果関係について解釈するには注意が必要である。第4に本研究では,下肢機能の指標としてSPPBを使用し,その1点変化をMCIDとして解釈したが,この基準は地域在住高齢者15,急性心疾患患者16,慢性閉塞性肺疾患患者17を対象とした研究に基づいており,在宅の慢性心不全患者に適用するには慎重な解釈が求められる。また,要介護高齢者ではSPPBの床効果が指摘されており37,本研究でも訪問リハ開始時のSPPB0点の患者が複数存在したことから,下肢機能の評価法の再検討も課題である。

結論

本研究において,慢性心不全患者に対する包括的訪問リハが下肢機能の改善や維持に有用であることが示された。訪問リハ開始時のADLレベルごとの下肢機能の改善率は,ADL自立群41.9%,軽度ADL低下群60.3%,高度ADL低下群36.4%であった。また,要介護度別の下肢機能の改善率は,要支援群76.5%,要介護1~2群46.3%,要介護3~5群43.5%であった。

利益相反

本研究に関連し開示すべき利益相反はない。

文献
 
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