陸水学雑誌
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北海道内で湧出する褐色温泉に含まれる溶存有機物質及び腐植物質中の炭素,窒素及びリン含量
高野 敬志内野 栄治青柳 直樹
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2018 年 79 巻 3 号 p. 169-178

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抄録

 褐色に着色した温泉はモール系温泉と呼ばれ,北海道各地で湧出している。着色の原因は,主に溶存有機物の腐植物質である。北海道の7地域に湧出する褐色温泉を採取し,溶存有機物及び腐植物質の炭素,窒素及びリンについて定量した。溶存有機態炭素,溶存有機態窒素及び溶存有機態リン濃度は,それぞれ0.31-6.2 mmol L-1, 0.004-0.80 mmol L-1 及び0.001-0.060 mmol L-1であった。腐植物質は,Supelite DAX-8樹脂によって疎水性酸性成分として抽出した。その炭素,窒素及びリン濃度は,それぞれ0.15-3.5 mmol L-1, 0.004-0.24 mmol L-1 及び 0.001-0.021 mmol L-1であった。6地域の温泉で,疎水性酸性成分中の炭素濃度が,親水性炭素濃度よりも高く,腐植物質が溶存有機物の主要な成分であると示唆された。河川水等との比較では,溶存有機炭素濃度幅が広く,疎水性酸性成分由来炭素が溶存有機炭素に占める割合も広い範囲幅内にあったことから,溶存有機炭素及び腐植物質の含有量が変化に富むことが示唆された。更に褐色温泉の溶存有機物及び疎水性酸性成分の炭素:窒素比は,表流水のそれらに比較して広い数値幅内にあり,変化に富むことが示唆された。最も深度が小さい温泉では疎水性酸性成分の炭素:窒素比が最も高く,深度の大きい温泉水では低い傾向にあった。このことは,深度の大きい温泉では地下に浸透してからの滞留時間が長く,腐植物質の成熟度が大きいこと,深度の小さい温泉では,腐植物質が泥炭等から溶出してから比較的時間が経っていないことを示唆するものである。ある温泉では,溶存有機物及び疎水性酸性成分の炭素:リン比及び窒素:リン比がかなり高かった。この温泉では溶存無機リンが検出されていることもあり,溶存有機態リンの無機化が活発に進んでいることが推定された。本研究で明らかにした北海道内の褐色温泉に含まれる有機物の炭素:窒素:リン比は変化に富んでおり,この数値は温泉固有の有機物質変遷過程を表す指数になると考えられる。

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© 2018, The Japanese Society of Limnology
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