陸水学雑誌
Online ISSN : 1882-4897
Print ISSN : 0021-5104
ISSN-L : 0021-5104
短報
水凍結乾燥法を用いた淡水産微小生物のSEM試料作製と観察-2(原生生物)
桑田 正彦名取 則明戸田 龍樹田中 和明鈴木 武雄
著者情報
ジャーナル フリー

2019 年 80 巻 2 号 p. 73-82

詳細
抄録

 原生生物のSEM観察では試料をあらかじめ化学的に固定するのが一般的である。しかし,固定剤は有毒で,その溶液は有害廃棄物として処理しなければならない。また,種によって最適固定剤や固定条件が異なるので,最適条件探しに多くの時間を費やすことがあり,固定はSEM使用の大きな障害となっている。我々は,一切化学薬品を使用せずに,水凍結乾燥によって淡水産原生生物のSEM試料作製を行い,その形態損傷について調べた。関東地方の湖沼や田圃で採取した原生生物の観察結果から,その形態や繊毛,鞭毛などの微細構造がよく保存されることが確認され,光学顕微鏡では同定が困難であった微細種の同定精度が向上した。固定が不要であれば,様々な種の一括処理が可能である。SEMを使用したプランクトン調査は手間がかかるのでこれまで実用的ではなかった。本方法を応用して富士五湖表層水中の原生生物調査を試みた。その結果、光学顕微鏡を使用した従来法とほぼ同等の結果が得られ,調査精度の更なる向上の可能性も見出した。SEM試料は脱水されているためデシケータ中で長期の保存が可能であり,後日調査結果を検証できることが本方法の大きな利点である。

著者関連情報
© 2019, The Japanese Society of Limnology
feedback
Top