抄録
胃癌術前照射における照射効果を検索するために,進行胃癌術前照射症例353例中,照射効果地図を作製し得た80例について,進展距離別,深達度別,線量別及び組織型別に照射効果を検討し,又,手術例321例(照射群)について非照射進行胃癌手術例771例(非照射群)を対照に,切除率, 5年生存率を比較検討し次の如き結果を得た.
結果
1) 術前照射にあたっては,綿密な照射計画をたてたうえで線源を選択し,照射範囲を決定すべきである.
2) pH 4.1 TBM法によるGAG染色で癌固有間質を鑑別する事が可能である.
3) 放射線照射により癌細胞が消失しても, pH 4.1 TBM法により判定された癌固有間質から,照射前の癌浸潤範囲を測定する事が可能である.
4) pH 4.1 TBM法は放射線照射により消失した癌細胞の証明法として現在最も優れた方法と考える.
5) 照射により癌細胞の変性,崩壊,消失が辺縁に著しく,進展距離及び深達度の改善が著明に認められた.
6) 進展距離別改善率は57.5%であり,特に最大長径6cm以内では76.6%と著明であった.
7) 深達度別改善率は46.1%であり,特に深達度ssまでのものでは61.0%と著明であった.
8) 線量別改善率は3,000rad照射で80.8%, 4,000rad照射で77.8%であった.
9) 術前照射は深達度se,最大長径10cmまでが限度であり,深達度ss,最大長径6cmまでの症例が最も好ましい適応であり,この範囲内であれば組織型にかかわらず至適線量は3,000乃至4,000radといえる.
10) 非照射群に比し,照射群では切除率において5.8%, 5年生存率において11.5%の向上を認めた.