日本臨床外科医学会雑誌
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十二指腸潰瘍に対する拡大選近迷切術の成績と問題点
吉野 肇一中村 修三春山 克郎磯部 潔熊井 浩一郎石引 久彌
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1980 年 41 巻 1 号 p. 30-39

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抄録
十二指腸潰瘍に対するSPVの成績向上のために,従来の術式に以下のごとき改良を加えた.まず減酸率の向上のために迷切の範囲を拡大した(SPV-Mark II).すなわち,右胃大網動・静脈の胃下方1/3付近での切離,迷走神経幽門洞枝の最口側枝の切離,胃穹窿部の完全遊離と短胃動脈最頭側枝の切離,腹部食道の5cm以上の完全な遊離,噴門背側の左胃膵靱帯の切離と噴門部の完全な遊離などである.補修操作として,術後食道裂孔ヘルニアなどの予防のために胃小弯剥離部の再腹膜化とanterior hemifundoplicationを14例に行った. drainageは可及的に行わない方針であるが,用指ブジーにしても1横指幅が得られない場合には,術後の変形の少ないpartialまたはtotal pylorobulbectomyを13例に行った.
SPV-Mark IIを26例の十二指腸潰瘍患者(うち5例は急性穿孔例)に施行した.減酸率はBAOで平均91.8%, insulin PAOで84.0%と満足すべき成績が得られた.したがって本術式は,ほとんど全ての十二指腸潰瘍に適応出来るものと思われた.
迷切範囲の拡大に伴い,手術時間,出血量,術後入院日数のいずれの点においても,待期的手術では従来のSPVよりも,また急性穿孔例では従来の広胃切よりも不良であった.しかし症例を重ねることによって,上記の3点は改善されつつある.
術後の合併症として2例(7.7%)にアカラジア様症状を, 4例(15.4%)に食道裂孔ヘルニアを認めた.両者は特に関係はなく,また後者のうち3例はhemifundoplicationを施行しなかった例であった.丁寧なhemifundoplicationは食道裂孔ヘルニアの予防に有効と思われた.
以上のごとき拡大迷切と補修操作は,手術的に習熟すれば,十二指腸潰瘍の手術として,きわめて有意義な術式と思われた.
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