抄録
乳腺腫瘤に対する穿刺吸引細胞診は近年発展・普及が目ざましいが,今なおその細胞判定における困難性が課題とされている.
われわれは本法による細胞診断の向上を目的として,組織学的診断がえられた乳腺疾患338例(良性125例,悪性213例)の細胞所見を詳細に検討するとともに,判定困難細胞に対する対処のしかたを研究し,以下の結論を得た.
1. 良・悪性細胞の細胞学的特徴を検討し,細胞の結合性,クロマチンパターン,核形,核径及び核径差よりなる細胞判定のスクリーニングの基準を設定した.
2. 吸引細胞の集団の特徴的構築所見を中心に他の細胞所見を加味することによって,組織型を推定できる.
3. 月経周期による細胞形態の変化は良性疾患の多くにみられるが,悪性疾患ではほとんどみられない.
4. 抗エストロゲン剤投与によって,良・悪性疾患に細胞形態の変化が生じ,その本来の性格を示すようになる.
5. 抗エストロゲン剤投与による細胞形態の変化は良・悪性判定困難細胞において特に強く,抗エストロゲン剤による内分泌療法は確定診断上,有用な一方法である.
6. 以上のごとき細胞学的診断と,われわれが開発した自動穿刺吸引塗抹装置の使用によって術前診断率は飛躍的に向上した.本法はいまや組織診に匹敵する診断法である.