1984 年 45 巻 5 号 p. 569-583
Natural Killer(NK)細胞は生体の免疫学的監視機構において重要な役割を担っていると考えられている.しかし,ヒトNK細胞のin vivoにおける性格や役割,さらには免疫能をみる指標としての臨床的意義などはいまだ明らかでない.そこで胃癌48例と乳癌20例を対象に,手術前後における末梢血リンパ球のNK細胞活性について検索し,つぎのような結果を得た.胃癌,乳癌における術前のNK細胞活性は,良性疾患,健常人に比較し,低下していた.とくに胃癌ではstage, リンパ節転移度,深達度,脈管侵襲などがすすむにしたがい低下する傾向がみられ,術前のNK細胞活性よりstageを予測しうることが示唆された.また,胃癌,乳癌におけるNK細胞活性と,既知の免疫学的指標であるPHAリンパ球幼若化反応およびT細胞比との関係をみたが,いずれも相関を認めなかった.これによりNK細胞活性は癌患者の免疫能を把握する新しい指標となりうることが示唆された.一方, NK細胞活性の術前・術後の動態は,術後1週では胃癌,乳癌,良性疾患とも低下, 2~3週では疾患の悪性度,手術侵襲などに応じて回復した.またNK細胞活性は免疫賦活剤の投与により上昇することから,術後免疫化学療法施行の有用な指標となりうることが示唆された.さらに, NK細胞活性と体重指標,血清総コレステロール値との間には相関を認め, NK細胞活性と栄養状態との間には関連があることが示唆された.また胃癌,乳癌における栄養指標の術前・術後の変動は,術後1週で低下, 2~3週で回復し,同疾患におけるNK細胞活性の動態と同じ傾向を示した.