日本臨床外科医学会雑誌
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左側心膜完全欠損の1例
本多 正久遠藤 幸男井上 仁
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キーワード: 心膜欠損
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1985 年 46 巻 8 号 p. 1090-1095

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抄録
最近我々は左側心膜完全欠損に漏斗胸及びbronchogenic cystを合併し,肺切除術後に急死した1例を経験したので報告し,併せて若干の文献的考察を加えた.症例は14歳,女性.左胸部痛,咳,痰,鼻閉を主訴として来院.生下時より漏斗胸を認め, 8ヵ月前より左上肺野のbronchogenic cystの感染を繰り返していた.胸部X線写真では左上肺野に新生児頭大の嚢状陰影があり,液体貯留像が認められた.左中肺野には無気肺像があり,心左縁は不明瞭であった.胸部CT像では左胸部嚢状陰影内の液性貯留像を認め,心左縁は判読不能であった.心エコー像及び色素稀釈曲腺では異常は認められなかった.以上,漏斗胸を伴った左気管支性嚢胞の感染との術前診断で左上葉切除術を施行した.
壁側胸膜と肺は高度に癒着し, cystはS1+2,3に存在し小児拳大であった.肺門部の癒着を剥離し,肺門部を処理した時点で左側心膜の完全欠損が発見された.左上葉切除術後下葉のふくらむのを確めた上で閉胸し,右側臥位から仰臥位に戻したところ血圧下降し,ショック状態となった.体外式心マッサージを施行したが漏斗胸のため有効でなく,直ちに側臥位とし再開胸し直接心マッサージを行い心拍動を得た.そこでGore-Texシートを用い人工心膜を作製し閉胸した.しかし,術後心室頻拍, short run多発し,術後9時間にて再びshockとなり肺水腫を来し死亡した.
心膜欠損は定型的な所見に乏しく,他の胸部疾患を合併した場合,その症状及び所見は容易にmaskされ,術中に発見された場合も放置されることが多いが,急死例も報告されており,特に開胸術時に発見された心膜欠損については放置せず,心膜形成術を行うことが望ましいと考えられた.
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