1997 年 58 巻 12 号 p. 2819-2823
症例は58歳男性.交通事故で破裂腸管切除を受け,その際中心静脈カテーテルを挿入された.抜去2カ月後刺入部を中心とする発赤腫脹が出現し,鎖骨骨髄炎の診断で入院,鎖骨内側および胸骨を一部切除掻爬し治癒した.中心静脈カテーテル挿入に起因する合併症の中で鎖骨骨髄炎は,きわめて稀な合併症で内外の報告を併せてもわずかに7症例である.発症の原因としては,カテーテル挿入時の骨膜損傷または周囲の血腫形成が最も重要であり,ここに血行性または刺入部皮膚から直接細菌が侵入生着すると考えられる.予防的には,無菌法の実施と穿刺手技の向上はいうまでもないが,近年安易に行われる傾向にある中心静脈カテーテルの適応基準を厳格にし,末梢静脈で管理できる症例には適用とすべきではない.鎖骨骨髄炎の頻度は低いが,治療に当たっては抗生剤による治療に拘泥すると敗血症を併発して死亡する報告もあり,手術の時機を逸しないように注意すべきである.