1998 年 59 巻 1 号 p. 164-168
症例は46歳,男性,右下腹部の腫瘤触知を主訴に入院となった. CT検査で多発性肝転移を認め,大腸内視鏡検査にて上行結腸に2型の腫瘍を認めた.腫瘍は十二指腸に浸潤していたため,結腸右半切除,肝部分切除,十二指腸部分切除を施行した.病理組織学的にはchromogranin染色陽性で内分泌細胞癌と診断された.術後食事摂取進まずビタミン剤を含まない中心静脈栄養を施行中,両側注視麻痺,躯幹失調,意識障害などがみられたためMRI検査施行したところT2強調画像にて中脳水道周辺に両側性の高信号域を認めWernicke脳症と診断された. B1剤の投与にて脳症自体は速やかに改善したが,急速な肝転移および腹膜転移の増大を認め,第88病日目に死亡した.大腸の内分泌細胞癌は極めて稀で,また消化管術後のWernicke脳症の併発も極めて少ない.本例のような手術術後にもWernicke脳症が起こりうることは常に銘記すべきことと思われた.