2001 年 62 巻 3 号 p. 809-812
33歳女性.第3子出産後,発熱・下腹部痛が出現し,さらに臍部から膿汁の流出を伴うようになった.腹部CT・MRI検査では8cm大の左卵巣腫瘍と腹直筋,腹膜の肥厚像を認めた.注腸検査,大腸内視鏡検査では大腸由来の瘻孔は否定的で,臍瘻形成の原因は術前に診断できなかった.手術所見では,左卵巣腫瘍は皮様嚢腫で,これに交通する形で,臍部の腹壁直下に毛髪を含む炎症性腫瘤が認められた.また,虫垂間膜に毛髪を含む肉芽組織が付着していたことから,皮様嚢腫の腹腔内穿孔と考えられた.以上の所見から,皮様嚢腫が出産を契機に破裂した後,腹壁直下に限局して腹腔内膿瘍を形成し,周囲組織に炎症が持続波及することによって腹壁へ穿通を来たし,その結果臍瘻が生じたと考えられた.皮様嚢腫の臍瘻形成はわれわれが検索しえた範囲では本邦第1例目であった.