抄録
経過中腫瘍マーカーの上昇を認め,破裂が疑われた稀な脾嚢胞の1例を経験した.症例は33歳,女性.腹部膨満感を主訴に近医受診.腹水を認め,血清CA19-9: 8,400U/ml, CA125: 570U/mlと高値を示した.悪性疾患を疑い精査したが,脾内に小嚢胞を認める以外明らかな病変を認めず,腹水消失とともにマーカー値も低下した. 8カ月後両側腹部痛で当院受診し, CTで脾内に径11cm大の嚢胞を認めた.血清CA19-9のみ61U/mlと軽度上昇していた.嚢胞の穿刺内容は漿液性で,腫瘍マーカーは, CA19-9: 10,000U/ml以上, CA125: 42,000U/mlであった.穿刺により嚢胞は一旦縮小したものの,短期間で再び増大した.症状が改善しないことに加え,悪性の疑いも否定しきれず,開腹下に脾摘術施行.摘出脾は125gで,内部に11×5cm大の嚢胞を認め,嚢胞内面を覆う上皮は,単層扁平~重層扁平上皮が基本で悪性所見は認めず,上皮性嚢胞と診断された.術後腫瘍マーカーは正常化した.