2003 年 64 巻 9 号 p. 2171-2174
1990年から2001年までの12年間に当院で手術を行ったシートベルト着用者における小腸損傷6例を経験した.年齢は18歳から75歳,男性2例,女性4例であった.小腸損傷の診断は難しく,術前に正診できたものはなかった.初診時には筋性防御などの腹膜刺激症状,直接的所見の遊離ガス像および間接的所見の腸管壁肥厚・腹膜腔内液体貯留の検出率は低いが,時間の経過とともにいずれの検出率も高くなった.シートベルトを着用した腹部外傷症例は,入院の上慎重な経過観察を行い,手術の時期を逸することがないように注意することが肝要である.また靱帯の牽引力,シートベルトと脊椎との間に生じる直達外力,前腹壁からの介達外力,小腸内容物の存在,腸管の癒着などの要因が組み合わさって損傷機序に関与したと推察され,シートベルトは腹部の外傷の予防には有効ではなく,今後エアバッグシステムの装備を考慮する必要がある.