1992 年 33 巻 9 号 p. 1166-1171
先天性アンチトロンビンIII (AT III)欠乏症妊婦に,妊娠中・後期はワーファリン投与,その他の時期はAT III濃縮製剤の投与を行った。患者は下肢血栓症を発症したが,フィブリノペプチドA (FPA), トロンビン・AT III複合体(TAT)値はその1週間前に既に高値を示しており,血栓症予知のマーカーとしての可能性が示唆された。血栓症はAT III濃縮製剤の投与にて改善した。したがって週1∼2回FPA, TATを測定し,高値の場合にはAT III濃縮製剤の投与が必要と思われた。またワーファリンは,催奇性を避けるために妊娠6∼9週の間は投与しないこと,投与中は胎児の中枢神経異常を避けるために頻回に血液凝固能検査を行い,過剰投与に対する注意が必要と思われた。母児ともに異常無く出産し,臍帯血のAT III活性は18%であった。一般に新生児期にAT III活性のみによりAT III欠乏症と診断するのは困難であるが,今回われわれは,臍帯血を用いてAT III遺伝子の制限酵素断片の多型性を解析し,新生児期に患児と診断し得た。