2015 年 56 巻 6 号 p. 632-638
静脈血栓塞栓症は様々な先天的/後天的リスクにより発症する多因性疾患で,従来欧米人に多く日本人には少ないとされてきたが,診断技術の向上や食生活の欧米化などにより日本人にも決して少なくないことが明らかにされている。遺伝性血栓症の原因として様々な凝固関連因子の遺伝子異常が同定されているが,いまだに原因不明な遺伝性血栓症もある。我々は長らく原因不明であった遺伝性静脈血栓症家系において,通常は出血症状を示すプロトロンビン異常症で逆に血栓症の原因となる遺伝子変異を発見した。詳細な解析結果から,この変異由来トロンビンは凝固活性がやや弱いものの,アンチトロンビン(AT)による不活化に抵抗性を示すため長時間活性が残存するため血栓症の原因となることが判明し,新しい血栓性素因・ATレジスタンス(ATR)として報告した。本稿では,新しい遺伝性血栓性素因・ATRについて最近の知見も踏まえて概説する。