2017 年 58 巻 7 号 p. 792-797
細胞運命決定は発生,成体組織の維持において重要である。古典的細胞運命決定には転写因子が必須であると考えられてきた。近年マイクロRNA(miRNA)が生物学的に重要な機能を持つことが明らかになったが,細胞運命決定においては,転写因子によって既に系列が決定された細胞で他系列の遺伝子発現を抑制するのみという,fine tunerと考えられてきた。我々は,miR-126がMLL-AF4急性リンパ性白血病細胞をB細胞分化に必須の転写因子であるTCF3/E2A,EBF1,PAX5の発現上昇を伴うことなくB細胞分化を誘導することを見出した。他の二つの転写因子の機能を補完するEBF1を欠損させると分化が停止し,B細胞系列決定は起こらないが,miR-126を導入すると部分的にB細胞が誘導できた。さらに驚くべきことに,miR-195がB細胞系列の決定をしめす表面マーカーCD19の発現を誘導した。以上の機序にはTGFベータ経路の関与が示唆された。以上の結果はmiRNAがfine tuner以上の役割を細胞運命決定において担っている可能性に加え,miRNAが転写因子異常を認める造血腫瘍の創薬標的になり得ることを示唆する。