2023 年 64 巻 5 号 p. 406-410
代謝産物が細胞の分化をどのように制御するのか,最近,その分子学的機序に注目が集まっている。赤血球分化ではヘム合成が大きく亢進し,ヘムはヘモグロビン合成に使われることで成熟赤血球が完成する。この機能分子(ヘモグロビン)形成への寄与に留まらず,ヘムが遺伝子発現制御因子として機能する可能性が明らかになってきた。例えば,ヘムは転写因子BACH1に結合して,これを不活性化することで,BACH1が抑制するグロビン遺伝子群の発現を誘導する。またヘムは,転写因子GATA1の標的の一つであるオートファジー関連遺伝子群の発現を誘導し,ミトコンドリアの除去を促進することで赤血球成熟を促す可能性が明らかとなった。さらに,ヘムはゲノム上のグアニン四量体領域に直接結合し,周辺遺伝子の発現を調節する可能性がある。本稿では,赤血球を中心に鉄ヘム代謝による遺伝子発現制御機構を概説し,今後の鉄ヘム代謝研究を展望する。