本論文では、中国・内モンゴル自治区ハンギン旗に暮らす遊牧民C、B、Nの3家族を事例として、伝統的遊牧時代(-1949年)、集団経営時代(1949年-1978年)、個別経営時代(1978年-現在)の3つの時代における遊牧生産方式の変遷を、家畜放牧形態反び環境負荷を中心に考察する。家畜放牧は、伝統的遊牧形態-定性放牧形態-定地放牧形態へと変化してきた。この過程で、放牧地の面積と家畜が採食可能である草類が減少し、草原の採食圧と劣化草原面積が増加している。結論として、主に以下の2点が明らかになった。(1)伝統的遊牧時代には、遊牧民は草原の自然特徴を考慮して放牧地を選定し、草や水などの自然資源の変化及び気候変動に応じて季節的移動とオトル(臨時移動)を行い、その結果、草原が保全されていた。(2)遊牧生産方式の変遷の外的要因は、社会経済制度の変革、国による定住化と農業化の推進、草原への農耕民の移住であり、それらは草原破壊とも関連している。