2024 年 16 巻 p. 250-260
指導実践の現場では,指導者や選手の間で様々な指導言語が用いられる.本研究の対象となる〈待つ〉やその活用語を用いた指導言語が使用される場面は少なくないと言えよう.一方で,この言葉の意味する内容について伝え手と承け手との間に相互理解がうまく機能しないことや,効果的でないケースが存在すると考えられる.本研究おいては,待つという現象に関わる修正事例を取り上げ,この現象の意味内実について発生運動学的視点から分析を行った.ある動作のタイミングが早くなるという問題を〈待つ〉や〈我慢〉といった動感では解決できない場合が存在する.例えば,待ちたくても技術的に待てないという場合や,〈待つ〉ということ自体に技術的な難しさはないものの,その調整が難しく,危険な失敗と隣り合わせにあるという場合である.本研究において明らかになったことは,こうした問題の解決するためには,動作を行うのに適切な位置を狙うことのできるコツの発生が不可欠ということである.