抄録
本研究は,新米野球投手コーチである筆者がアクションリサーチ(AR)を通じて自身のコーチング行動を省察・改善する過程と,その変化が選手の学びや行動に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.A 高校硬式野球部の投手5 名を対象にAR を実施し,筆者のコーチング行動および発話の変容をThe Arizona State University Observation Instrument(ASUOI)とテキストマイニングにより分析した.その結果,筆者のコーチングにおいて「動作中の指導」が減少し,「発問」や「具体的表現」の使用が増加したことが確認された.また,選手の発話には,動作に対する自己評価の言語化が増加する変化も確認された.さらに,こうした実践の変容が選手の心理的能力に与える影響を検討した結果,J-PATEAの「自己分析力」や「客観性」において有意な向上が認められた.これらの結果より,AR は新米コーチ自身の学びを支援するとともに,選手の内省的な学びを促進する有効な枠組みである可能性が示された.