根の研究
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根端内鞘における注目すべき二三の事実
鳥山 英雄
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2005 年 14 巻 2 号 p. 35-40

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抄録

従来, 植物細胞・組織の顕微鏡標本作製にあたって固定液として用いられたものとしてFAA (formalin 5, acetic acid 5, abs. ethanol 60, water 30, in vol) がある. この固定液には酢酸が含まれているので, Ca++は勿論Ca++と結びついている原形質蛋白の大半は流出する. FAAによる固定後, 種々の染色法をほどこし, これを顕微鏡下で観察する時, われわれが目にするのは細胞壁を主体とする組織像なのである. 生理作用の主役である原形質を観察することが不可能となるので, 組織生理学的な研究には不十分である. Lillie's 緩衝中性ホルマリン固定, メチル・ブルー染色によるプレパラートにおいては, 細胞壁はほとんど染まらないので, 原形質の観察には非常に有効である. この手法をマメ科植物の根端に適用し, 二三の新事実を見い出した. アラスカエンドウ・ソラマメ・ぶんどうまめの根端においては, 初期分化の行われている一定の範囲 (アラスカエンドウでは, 先端より500~1500μm) において, 内鞘には染色性の強い細胞 (α-細胞) と染色性の弱い細胞 (β-細胞) の分化が認められる. また, β-細胞中にはメチル・ブルーによく染まる, 小さな球状の顆粒が認められる. これは分泌顆粒と推測されるが, その化学的同定は極めて重要な課題である. 筆者は, α-細胞を中心とした染色性の強い組織をα-zoneと称し (この細胞群はAch 10-4M処理によって収縮する) 染色性の弱い細胞群をβ-zoneと称した. この両者は生理的にことなる機能をもつものと推測される. 今後の重要な研究課題であると思われる.

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